EMCジャパン 代表取締役社長 諸星 俊男氏
EMCジャパン 代表取締役社長
諸星 俊男氏

 EMCは、市場の変化に合わせて変革を続けている。かつてはストレージベンダーであったが、今では情報インフラストラクチャーのベンダーとしてビジネスを展開している。現在のミッションは、「プライベートクラウドにお客様をご案内する」ことである。

 では、なぜEMCはプライベートクラウドを推進しているのか。まずは各社のCIOがそれを求めていることがある。CIOを対象としたある調査では、優先的に導入したい技術の1位が仮想化、2位がクラウドコンピューティングである。次にITインフラが過度に複雑・非効率で柔軟性がなく、高コスト体質になっているという問題がある。その結果、新規インフラに対するIT投資額は全体の28%にとどまる。

 加えて、「情報の爆発的増加」がある。その調査によると、世界全体の情報量は2010年に1.2ゼッタバイトになる見込みだ。ゼッタとは10の21乗のことで、1ギガの1テラ倍になる。16ギガバイトの容量を持つiPadを使って管理しようとすると、750億台が必要になる。情報量は今後も毎年6割程度増えていくとみられる。世界の情報のうち85%は企業によって管理される必要性が生じ、膨大な情報の保存・管理は企業にとって大きな課題になる。

独自のプライベートクラウドを提供、技術の“いいとこ取り”を実現

 EMCでは、企業内に設置するクラウド型のITインフラを「インターナルクラウド」と呼び、フェデレーションというアーキテクチャー(VMwareのvMotionとEMCのVPLEX)でそれをパブリッククラウドと融合させたものを「プライベートクラウド」と呼ぶ。EMCのプライベートクラウドは、情報インフラストラクチャーと仮想インフラストラクチャーの2つの要素をクラウドOS(VMwareのvSphere)でつなぐことによって、“いいとこ取り”を狙っている。

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 EMCのプライベートクラウドは、社内外のリソースにまたがった仮想化インフラとして、IT部門によるコントロールとビジネス部門へのシームレスなサービス提供を両立する。ミッションクリティカルなシステムは企業内クラウドで運用し、外部に任せてよいものはIT部門がコントロールしたうえで任せる。これらを融合して使いこなすことで、効率的なシステムになる。

 既存の企業内データセンターは、実証済みの技術で構成されていてIT部門によるコントロールがきき、信頼性やセキュリティレベルが高く安心して使える。一方で、複雑であり、非効率的で、柔軟性も乏しくなっている場合が少なくない。まずはここに仮想化技術を取り入れ、コスト効率が高く、ニーズに応じて構成を変えられる柔軟性に優れたインターナルクラウドに発展させる必要がある。

 具体的には、サーバー、ストレージ、ネットワークから成るITシステムを仮想化によって統合・簡素化することで、ITインフラは効率的になる。加えて、業界標準のハードウエアとソフトウエアを採用し、標準化されたプロセスに基づいた運用管理によって、運用効率が向上して高い拡張性と柔軟性が得られる。それぞれの取り組みを講じることで、企業内のシステムと外部のシステムが連携しやすくなる。

 それを実現する製品の1つに仮想ストレージアプライアンス「EMC VPLEX」がある。最大の特徴はストレージ装置の稼働場所によらず、管理対象の情報に自由にアクセスしたり、情報を移動したりできる点にある。このため、社内社外を問わずプライベートクラウドの中で、サーバーや情報を自由に連携することが可能になる。データセンター内を対象とするVPLEXLocalと100km以内のデータセンター間で同期するVPLEX Metroはすでに販売しており、距離を数千kmに延ばしたVPLEXGeoと距離無制限で複数サイトを結び最適化を実現するVPLEXGlobalは2011年以降に発売する予定だ。

 プライベートクラウドに至る旅路は、仮想化のレベルによって3段階に分けられる。仮想化率30%くらいまでは「IT部門での導入」段階で、コスト削減がその狙いだ。次が「ビジネスアプリケーションへの導入」の段階。仮想化率は50%から85%となり、サービス品質の向上という成果を得られる。すでにEMCのIT部門はこの第2段階に到達し、運用コストで1100万ドル、データセンターの装置では600万ドルの削減に成功した。そして、仮想化率95%という最終段階では、ITをサービスとして提供する「IT-as-a-Serivce」が実現され、俊敏性がさらに向上する。

研究開発と企業買収に注力、革新的なテクノロジーを生む

 EMCは研究開発と革新的企業の買収に毎年多額の投資をしてきた。過去5年間の投資総額は140億ドルを上回る。研究開発費にも売上高の1割を当て、その大半をクラウド関連のソフトウエア技術が占める。今後は、物理インフラだけでなく、クラウドで使われる仮想インフラも提供する企業を目指していく。