NEC 代表取締役 執行役員社長 遠藤 信博氏
NEC 代表取締役 執行役員社長
遠藤 信博氏

 「ICT」という言葉に示されるように、いまやITとネットワークは不可分の関係にある。当社はおよそ30年前に「C&C(Computers & Communications)」を掲げ、その融合にいち早く取り組んできた。

 ITとネットワークの融合と進化は、いまクラウドコンピューティングという新しい時代を切り開きつつある。非常に大きな可能性を持っており、今後、様々なサービスやビジネスを生み出すだろう。当社の「C&Cクラウド」が目指すのは、新しいサービスづくりや、先端の情報システムによる豊かな社会と個人生活の実現への貢献である。

4つのコア技術をベースに3つのクラウド事業を展開

 C&Cクラウドは、3つの事業領域を対象としている。多様な業界のお客様に対してクラウドサービスを提供する事業、お客様のクラウド環境構築を支援する事業、クラウド構築に必要なプラットフォームを提供する事業である。これらを支えているのが、当社の4つのコア技術だ。

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 第1に、IT・ネットワーク共通プラットフォーム。当社の得意とするITとネットワークの統合技術を生かして、高効率・高信頼性のクラウド基盤を構築する。それによりお客様のシステム導入を短期化し、運用負荷の低減に貢献する。

 第2に、ミッションクリティカル&リアルタイムである。高度な信頼性を要求される大規模基幹システムのオープン化に、当社は1990年代から取り組んできた。以来、多くの案件でミッションクリティカル性とリアルタイム性との両立を実現させてきた。そのノウハウはクラウドで十分活用できる。

 第3に、ユビキタステクノロジーの強み。多彩なデバイスがクラウドとの接点になる。クラウドに電子データを送るRFIDリーダーやセンサー、クラウドサービスの提供窓口になるデジタルサイネージや各種端末など。これらのデバイス群を含めて、当社はクラウドサービスをエンド・ツー・エンドで構築できる。

 第4に、先進的なグリーンテクノロジー。当社はデータセンターの省電力化や省スペース化など「Green of IT」と、企業や社会の効率向上などの「Green by IT」を両輪で推進している。従来比で最大70%の省電力化を実現したサーバー「ECO CENTER」、自動車用リチウムイオン電池などの強みがある。

 以上のようなコア技術は、すでに様々な場面で生かされている。例えば、地域医療情報の連携システム。患者が病院で登録した電子カルテや診察情報などを、診察所など他の医療機関でも参照できるシステムにより、効率的かつ充実した医療サービスに貢献している。当社が米国のマサチューセッツ総合病院の協力を得て開発したクラウドベースのSaaS型がん病理画像診断支援システムも先進的なものだ。高品質の画像情報、病理情報などをNECのデータセンターで分析処理し、各地の病院が遠隔利用する仕組みである。

 指紋認証や顔認証など生体認証の分野でも、当社は技術的なアドバンテージを持っている。それを生かしてボリビアやコロンビア、ブラジルなどで、住民のID管理などのための指紋認証システムを提供したほか、世界中で国家インフラとも呼べるシステムの構築を手がけてきた。加えて、インドのバンガロールに生体認証技術の技術センターを設置した。研究開発を加速するとともに、グローバルな技術サポート体制を強化している。

グローバルでの経営体、顧客サポート体制を強化

 RFIDの活用では、中国の薬品卸大手の温度センサー付きRFIDを用いたトレーサビリティシステム構築をサポートしている。温度管理タグを輸送箱に取り付け、保管中・輸送中の温度を記録し、データをもとに問題点を改善する。今後農産物や加工食品の分野でも、役立てることができるのではないかと期待している。

 次に、企業の業務プロセス改革。この分野でクラウドを活用した典型的な事例が、NEC自身の基幹システム刷新プロジェクトである。海外グループ会社も含めて12万人が利用する大規模なシステムをプライベートクラウドの活用で刷新し、運用コストは従来比で2割削減した。ここで蓄積したノウハウを、当社はコンサルティングを含めてお客様に提供している。

 地球環境の観点では、先に触れたグリーンテクノロジーの一段の強化に取り組んでいる。例えば、日産自動車と共同で開発したリチウムイオン電池は、日産の電気自動車「リーフ」に搭載される。スマートグリッドでの事業展開も視野に入れる。

 C&Cクラウドを世界中のお客様に届けるために、グローバル事業基盤の整備も進めている。それは欧州・アフリカとアジア・太平洋、中華圏、北米、南米という5極を日本のガバナンスのもとで連携する仕組みだ。グローバルなサポート体制も強化される。

 その成果の1つが、スペインの通信キャリアであるテレフォニカとの協業だ。同社の南米でのクラウド事業のパートナーとして、SaaS事業基盤構築を共同で推進している。世界を見渡せば、クラウドが貢献できる分野は広大だ。「人と地球にやさしい情報社会」の実現に向けて、NECの強みを生かしながら、C&Cクラウド戦略を加速したい。