「これまでにない力仕事をやろうとしている」---。

 本特集の第1回第2回で解説したような周波数再編の大きな方向性が打ち出されたことを受けた2010年9月2日、総務省の情報通信審議会「携帯電話等周波数有効利用方策委員会」は、4月に中断して以来5カ月振りに会合を再開。その中で総務省の吉田靖電波部長は冒頭のように述べた。

 同委員会は、今回の電波政策大転換の発端と言える700M/900MHz帯の割り当て議論を進めてきた会合だ。具体的には、隣接周波数帯システムとの干渉などの技術的条件を検討する役割を担っている。

 吉田部長の言葉の通り、700M/900MHz帯再編の具体化はこれからが本番となる。大臣直轄のICTタスクフォース「ワイヤレスブロードバンド実現のための周波数検討ワーキンググループ(WG)」の中間とりまとめでは、まだ再編を促す方向性が固まっただけだからだ。地上デジタル放送への完全移行が2011年7月と迫り、700M/900MHz帯が利用可能になる日が近づく中、700M/900MHz帯再編に伴う具体的な周波数帯の移行先の確保、コスト負担などを早急に詰める必要がある。

 そこで周波数検討WGでは、10月末までに具体的な実施内容を検討し、11月末までに700M/900MHz帯の再編方針を策定する計画を決めた。さらに並行して、携帯電話等周波数有効利用方策委員会では技術的条件を決めるという強行軍で事を進める。まさに、“これまでにない力仕事”の始まりである。

 移動体に向く性質を備えることから“黄金周波数帯”とも呼ばれる700M/900MHz帯(関連記事1関連記事2)。携帯各社の今後を左右する700M/900MHz帯の再編の行方は、11月末までのこの2カ月間に大きな山場を迎える。

各社の周波数枯渇の予想時期と再編可能時期がポイントに

 700M/900MHz帯の割り当ては、携帯電話事業者4社とモバイルWiMAX事業者であるUQコミュニケーションズのいずれもが希望している。

 6月末に周波数検討WGで実施された事業者ヒアリングでは、KDDI、ソフトバンクモバイル、イー・モバイルが国際的に協調が取れたFDD(Frequency Division Duplex)システムの上下ペアバンドを、700MHz帯、900MHz帯それぞれの帯域の中で確保して割り当ててほしいと希望した(関連記事)。以前は、700MHz帯と900MHz帯とで上り/下りに分けてペアとする原案でやむなしとしていた3社だが、議論が仕切り直しになったことを受けて意見を変えた形だ。なおNTTドコモは、再編にかかる時間を考慮し、「700M/900MHz帯を上下ペアで使う原案の形が現実的」という意見を表明している。

 ここで言う国際協調が取れた周波数帯とは、700MHz帯においては、米国で割り当てられた周波数帯やアジア太平洋地域の無線関連の標準化団体である「AWF」(APT Wireless Forum)で検討中の周波数帯を指す。900MHz帯においては、欧州で割り当てられた周波数帯だ(図1)。図を見ると分かるように、携帯電話が使っている周波数帯は世界的に統一されたものではない。しかし大まかな周波数配置が一致していれば、共通のチップで端末を製造できるメリットがある。

図1●各国の周波数割り当て状況と日本の700M/900MHz帯の割り当て案<br>「ワイヤレスブロードバンド実現のための周波数検討ワーキンググループ」の中間とりまとめから抜粋。
図1●各国の周波数割り当て状況と日本の700M/900MHz帯の割り当て案
「ワイヤレスブロードバンド実現のための周波数検討ワーキンググループ」の中間とりまとめから抜粋。
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 各社とも、願わくば国際的に協調の取れた周波数帯の確保を望むだろう。とはいえ、自社の持つ周波数帯の容量では足りなくなる時期までに再編が終わらなければ元も子もない。交錯するニーズに応えるうえでは、各社が現在保有する周波数帯の枯渇予想時期が一つのポイントになる。

 前述の事業者ヒアリングの時点で、早期の割り当てを希望したのはソフトバンクモバイルとイー・モバイルだ。ソフトバンクモバイルは2012年ころに再編した900MHz帯の15MHz幅×2、イー・モバイルは2012年に900MHz帯の10MHz幅×2を割り当ててもらえるよう希望した。それに対してNTTドコモとKDDIは、2015年ころの追加割り当てを希望する。NTTドコモは2015年ころに700M/900MHz帯の10MHz幅×2以上、KDDIは2015年ころに北米地域に合わせた700MHz帯の10MHz幅×2以上を割り当ててほしいとした。またUQは700MHz帯にTDD(Time Division Duplex)バンドを作り、屋内浸透対策用に利用したい意向を示している。