今回も、前回に引き続き「要求開発」の準備フェーズを取り上げます(図1)。

図1●要求開発の4つのフェーズ
図1●要求開発の4つのフェーズ
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 前回は、「プロジェクト定義書」と「ステークホルダーリスト」について解説しました。これらを作成することにより、プロジェクトの基本情報を整理できます。今回は、ステークホルダー(利害関係者)からヒアリングした課題・要求を体系的に整理する方法とプロジェクトのゴール設定について解説しましょう。

 それでは、早速ホワイトバード社のケーススタディを見ていきましょう。

ステークホルダーから課題・要求を引き出す

 ホワイトバード社の新基幹システム構築プロジェクトを、父である白鳥太郎社長から一任された入社3年目の白鳥翼。どうしていいか分からない翼でしたが、情報システム室の桜井の助けを借りながら、プロジェクトの基本情報や発足趣旨、概要を記述した「プロジェクト定義書」と、関係するステークホルダーの一覧表である「ステークホルダーリスト」を、なんとか完成させることができました(前回参照)。

 ステークホルダーリストを作成してから1カ月後。早朝の会議室では、プロジェクトのコアチームである翼と桜井、営業部の直江が主催した会議が始まろうとしていました。プロジェクトとの関係性が深く、重要度が高いステークホルダーから情報を収集するのが目的です。会議に呼ばれたのは、白鳥社長、営業部の上杉部長、営業事務の千田、経理部の三菱部長と三井、そして工場の責任者である浜口センター長です。

桜井:「本日は、お忙しいところお集まりいただきありがとうございます。2012年1月にハードウェアのリースが切れるので、それに合わせてシステムを刷新することなりました。本日は、皆さんから現状の課題や要求をヒアリングしたいと思っています」
社長:「一言いいかな。我が社は、今のところ順調に業績を伸ばしているが、経済動向や競合他社の状況を考えると、のんびり構えてもいられない。営業からは、フランチャイズ店の取り合いになっているとも聞いている。こういう状況で、フランチャイズ店からの苦情が多い現行システムを、このまま放置しておくわけにはいかない。次期システムは、ホワイトバードだけでなくフランチャイズ店にとっても真に役立つものにしたいと考えているので、皆もぜひ協力してほしい」
直江:「では、まず浜口センター長。センター業務での現状の課題を教えていただけますか」
浜口センター長:「フランチャイズ店の受付ミスが原因で、トラブルに発展するケースが多いことだな。先日も、受付時にブラウスの飾りボタンが変色する可能性について説明していなかったので、クリーニング後にトラブルになった。トラブルが多いので、クリーニングしてもいいかどうか、わざわざフランチャイズ店に確認することも多い。いったん店舗に戻して、お客様に確認してもらうこともある。これが結構な手間になっている」
上杉部長:「フランチャイズ店では、専門的な知識のない人がお客様から衣服を預かるので、的確に情報が伝えられずにトラブルになっているようですね。学生のアルバイトや主婦のパートがほとんどですから」
浜口センター長:「これ以上、フランチャイズ店の尻拭いはごめんだよ。それからもう一つ。10時までに受け付けたものを17時までに仕上げる“お急ぎ便”サービスなんだが、衣替えの時期などで量が多いときは、人と機械をフル稼働しても間に合わないときがある。センターにはもう余裕がない」
社長:「今の状態で、機械などの設備投資をするのは正直つらい。その代わり人を雇って、2交代制にしてはどうだろう。雇用の創出という点で社会貢献もできるし、良い案だと思うんだが」
浜口センター長:「それは良い考えですね。私も2交代制は賛成です。ただ、フランチャイズ店のミス削減は必須です」
直江:「では、定期的にフランチャイズ店の教育をする機会を設けてはどうでしょう。営業は、フランチャイズ店からの問い合わせ対応に、かなりの時間を取られています。浜口センター長が店舗を教育してくださると、営業も大助かりです」
浜口センター長:「まぁ、そういう機会があれば、いろいろ教えてあげないこともないが」
翼:「センターでの課題についてまとめさせていただいてもよろしいですか?」

 翼はそう言って、ホワイトボードに次のように書きました。

  • 店舗では、クリーニングに関する専門的な知識のない人が受付業務をしているのでミスが多く、トラブルの原因になっている。センターの負荷増にもつながっている。
  • センターでの処理量が超過することがあるので、人と機械をフル稼働しても納品時間を守れないことがある。

浜口センター長:「センターでの重点的な課題は、そんなところだな」
桜井:「営業部からは何かありませんか?」
上杉部長:「フランチャイズ店からの問い合わせ対応に追われて、営業時間が思うように取れないという問題がある。フランチャイズ店ではお客様の履歴が見られないので、何かあると担当営業に『調べて欲しい』と言ってくるんだ。フランチャイズ店でもレジから履歴を照会できるようシステムで対応してくれれば、問い合わせが減って助かるんだが」

 翼は、ホワイトボードに次の項目を追加しました。

  • フランチャイズ店で必要な情報を参照する手段がないので、問い合わせ対応に追われて営業時間がとれない。

桜井:「経理部からは何かありますか?」
三菱部長:「フランチャイズ店から日々の売上金を回収して、毎月売上の30%を振り込むことになっているんですが、基幹システムと経理システムが連動していないので、二重入力や転記などの手作業が多くなっています。人手を介することで間違いも多くなりますから、ぜひ自動化してほしいですね」

 それを聞いて、翼は次の項目をホワイトボードに追加しました。

  • 基幹システムと経理システムが連動していないので、二重入力や転記など手間がかかっている。

社長:「私からも一つ言わせて欲しい。現在は、フランチャイズ店の募集は、新聞や雑誌の広告を主体にしているんだが、広告費がばかにならないし、広告が掲載された直後は引合いが多いが、しばらくたつとさっぱり効果がなくなる。これを、インターネットを活用して、コンスタントに引き合いが入るようにしたい。そのために、ホームページを充実させて欲しい」

 翼は、ホワイトボードに以下の項目を追加しました。

  • 広告媒体が新聞、雑誌に限られており、効果が一時的なものになっている。(インターネットを活用しコンスタントな効果を狙いたい)