特許庁のシステム開発をめぐる贈収賄事件の初公判が2010年9月3日、東京地方裁判所で開かれた。起訴内容は、特許庁先任審判官の志摩兆一郎被告が、特許の審査業務などを支える、次期基幹システムの開発に関する情報を提供する見返りにNTTデータ元社員の沖良太郎被告らからタクシー代や飲食代など約250万円相当の賄賂を受け取ったというもの。沖被告は贈賄罪で起訴された。両被告とも起訴内容を認めている。

 公判により、両被告が犯行に至るまでの経緯や動機が明らかになった。両被告が仕事上の付き合いから友人関係になったのは1990年前半。同い年であることなどから気が合い、定期的に割り勘で会食をしていた。

 2004年、特許庁がシステム刷新によりコスト削減を目指す「システム最適化計画」を開始すると、既存システムの開発・運用を担当していたNTTデータへの風当たりが強くなった。

 これを受けて、NTTデータはシステム刷新の受注に向けた営業活動を強化。「アタックリスト」と呼ぶ、特許庁職員の名簿を作成する。特許庁職員一人に営業担当者一人を割り当て、受注に有益な情報を集めようとした。沖被告の担当は志摩被告だった。

 志摩被告は酔うと飲食店で寝てしまうことがあった。営業担当部長に昇格し、タクシーチケットを自分の権限で払い出せる立場にいた沖被告は、神奈川県小田原市に住む志摩被告を心配し、ある日タクシーチケットを渡してしまう。

 そのうち、志摩被告は自分から賄賂を要求するようになる。接待を受けていない日でも、飲食店に沖被告を呼び出してタクシーチケットを求めた。志摩被告との関係を維持したい沖被告は、法律違反と知りながら賄賂を渡し続けた。

 検察の求刑は、志摩被告が懲役2年と追徴金約250万円、沖被告が懲役10カ月である。判決は9月14日に言い渡される。

 一連の事件は、業界内に波紋を広げている()。8月20日に経済産業省の「特許庁情報システムに関する調査委員会」が公表した調査結果には、賄賂を受けていた職員が志摩被告以外にもいることが明記されたからだ。特に2人の職員は、新システムの入札に参加した東芝ソリューションと日立製作所にタクシー代や飲食代を肩代わりさせていたという。

表●特許庁のシステム開発をめぐる贈収賄事件の経緯
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表●特許庁のシステム開発をめぐる贈収賄事件の経緯

 NTTデータも9月6日に社内調査の結果を発表。沖被告とは別の社員が、経産省の調査委員会が公表した人物と同一と思われる特許庁職員2人のタクシー代と飲食代を支払っていたと発表した。