Web関連技術の標準化団体であるW3Cは2010年9月2日と3日、Web技術と放送技術、非パソコン端末を統合したサービス「Web on TV」の標準化に関するワークショップを慶応義塾大学で開催した。9月2日は、国内でのデジタルテレビの普及状況や、現行の仕様であるBMLによるデータ放送/双方向通信機能を活用した最新サービスについて、説明が行われた。説明では、日本放送協会(NHK)や民放各局が、今後の提供に向けて開発中のサービスも含めて、各種デモンストレーションを行った。

 9月3日は、HTML5をキーワードとしてUI(ユーザーインタフェース)やホームネットワークのハブとしてのテレビの役割、テレビや家電製品をネットワーク越しに操作するためのAPIなどのテーマを設定し、議論を行った。

放送側はWebとテレビの機能的な連携望む

 UIに関連して通信事業者からは、「様々な機器でHTML5をサポートしやすくするように、用途別のプロファイルを設定し、サポートする機能の優先順位をつけて対応を進めてはどうか」といった意見や、「まずはテレビでWebサイトをそのまま利用できることを目指し、機能やサービスの拡張はその後で考えればいいのではないか」といった意見が、ブラウザの開発メーカーなどからあった。

 これに対して放送事業者からは「テレビとWebを一緒に表示するだけでなく、いかに機能的に連携するかという観点で考えて欲しい。例えばWebからテレビ番組へのリンクを張れるとか、その逆方向のリンクができるなど」といった意見や、「後から機能/仕様拡張するというのはIPベースの端末寄りの観点。テレビは買い替えサイクルが長く、基本機能については昔販売した端末でも使えるようにしなければいけない。この時間感覚の差を埋める必要がある」といった意見が出た。国内の放送事業者は放送と通信を有機的にリンクした取組みを進めているだけに、単なるテレビ用の最新標準ブラウザの標準化では、「物足りない」というわけだ。

 このほか、DRM(デジタル著作権管理)に関する議論や、国や地域ごとに異なる映像表現ルールへの対応方法、ペアレンタルコントロールといった観点からの機能の盛り込みが必要とする意見があった。

テレビは家電をまとめるハブになる

 ホームネットワークのハブとしてのテレビについては、インターネットとDLNAなどのホームネットワークを繋ぐAPIが必要だという議論があった。メーカーの参加者からは、ホームセキュリティーや白物家電がテレビと連携するには、ネットワーク上の端末を自動検知する仕組みや、ネットワーク上の端末からテレビに対して「作業終了」などのメッセージを送る仕様が必要だという意見があった。これに関連して、外部からストーブを操作して故意に火事を起こすような使われ方ができないような、安全面での対策が必要だという意見もあった。

 最後に開催された取りまとめのセクションでは、「Web on TV」のテーマを、今後W3Cの中でどう扱っていくかについて議論した。まず海外の参加者から、議論の方向性を決めるに当たり具体的なユースケースを集めてはどうか、という意見が出た。これに対して国内の参加者からは、「ユースケース集めから作業していては議論に時間がかかる。ユースケースは初日のデモからもはっきりしている。もっと踏み込んだ方向性をここで決めるべき」という提案が出た。

 多くの家電メーカーや放送事業者からも、議論の方向性が定まらないと今後の議論に参加するかどうかも決められないという意見が出た。これに対してブラウザー開発メーカーからは「テレビでHTML5を利用する流れはもはや止められない。放送事業者は仕様策定の議論に参加すべき。(Webの標準化団体である)W3Cには、DRMに関心の低い参加者もいる。そうした人たちだけで仕様を決めてしまうことになれば、コンテンツホルダー側が後で困ることにもなりかねない」という指摘があった。

 今後の方針については、議論の場としてW3Cの会員を中心に議論する「ワーキンググループ」(WG)を設置するか、会員でなくともテーマに関心を持つ人が自由に参加できる「インタレストグループ」(IG)を設置するかでも意見が別れた。最終的には、Web on TVについて議論するテーマを決めるためのIGを2010年内に設置し、具体的な検討項目についてはIGの場で速やかに検討することで、まとまった。