Webの次世代標準仕様「HTML5」が、にわかに注目を集めている。HTML5は単なる仕様改定にとどまらない。Webの弱点を解消し、あらゆる情報システムの基盤へとHTML(ハイパーテキスト・マークアップ・ランゲージ)をバージョンアップさせる力を秘める。企業とIT(情報技術)業界に大きな利点をもたらすHTML5は、一方で波紋も引き起こす。米アップルや米アドビシステムズ、米マイクロソフト、米グーグルなどIT業界の巨大な“既得権益者たち”が互いの動きをけん制し合っている。HTML5のインパクトを追った。
情報の表示・閲覧から、アプリケーションを開発・利用するための「プラットフォーム」へ――。Webの全利用者にかかわる中核技術が、10年ぶりに変わる。
それが「HTML5」だ。Webブラウザーで文書を編集し、表計算を実行し、プレゼンテーションを作る。こうした高度なWebアプリケーションが、HTML5によって実現しつつある。
図1の左は、米国のベンチャー企業280ノースが開発した、プレゼンテーションソフトだ。米アドビシステムズの「Flash」などといったプラグインを使わず、Webブラウザーさえあれば利用できる。一般的なプレゼンテーションソフトと同じく、文字や画像を配置できるのはもちろん、動画を埋め込むことも可能。作成したプレゼンテーションのデータは、複数の利用者で容易に共有でき、Webブラウザーから編集できる。
この280ノースのアプリケーションは、業界標準であるHTML5だけで、独自のWebアプリケーション開発手法(Flashなど)と同等のコンテンツが作れることを示している。
動画の中身を自動判別
アプリケーションだけでなく、要素技術の応用例を示したデモンストレーションも、多数登場している。例えばWebブラウザー「Firefox」の開発を支援する米モジラ ファウンデーションは、静止画と動画、アニメーションなどを組み合わせた、動的なWebページのデモを公開している(図1の右)。動画やアニメーションを単体で表示しているのではなく、それらを動的に組み合わせたアプリケーションの可能性を示しているわけだ。
日本で2010年5月に発売された米アップルの「iPad」も、HTML5の普及に一役買う可能性が出てきた。アップルは「iPadレディ」と題した、iPad向けの動画コンテンツを提供するWebサイトの一覧を公開している。米CNNや米タイムワーナーといったメディア企業、大リーグ公式サイトや米ナイキなどが名を連ねる。
各WebサイトはサイズをiPad用に調整し、iPadでも再生可能なHTML5仕様の動画を公開している。iPad人気へ乗り遅れまいとする企業の増加とiPad自体の普及が相まって、HTML5の普及に弾みがつきそうだ。