クラウドコンピューティングの実用化が急速に進む中、国内市場においては特にプライベートクラウドに対する需要が高まりを見せており、クラウドサービスを提供するためのインフラ基盤に対する要件も厳しくなってきています。本稿では、クラウド環境を実現するインフラ基盤としてのストレージの要件と、それを満たすために必要なテクノロジについて説明します。

 クラウドのストレージを説明する前に、これまでの企業システムでのストレージについて触れます。一般に、さまざまな利用目的や利用規模に応じて異なる種類のストレージシステムを提供するアプローチがとられており、ハイエンドSAN、NAS、アーカイブなど、ハードウエアアーキテクチャーやマイクロカーネルなどが異なるストレージを購入する必要がありました。

 その結果、複雑さが増してストレージ利用率は低下し、容量とパフォーマンスの共有や再割り当てが難しくなり、ストレージインフラ個々および全体としての利用状況の可視化も困難になっていました。

 クラウドコンピューティングにおけるストレージの要件は、従来の企業システムのそれよりも厳しいものになります。クラウド環境で求められるストレージの要件をまとめると、次の5点になります。

(1)ストレージ利用効率の向上
 ストレージの効率性が向上すると、ストレージの総容量を大幅に削減でき、ストレージコストの削減だけでなく、消費電力、冷却コスト、フロアスペースの削減にも貢献することができます。クラウドのサーバー環境は仮想技術を使うことが多く、そうした環境では重複データが多いので、重複排除技術や効率的なクローニング技術は特に重要な技術となります。

(2)統合的なデータ保護
 ストレージ環境の共有が進むと、ストレージとデータ保護機能の緊密な統合が不可欠となります。

(3)サービスの自動化と管理
 管理プロセスの自動化による、サービスとの整合性のあるプロセスの実現が求められます。プロビジョニング、バックアップ、レプリケーションなど、多くの管理タスクをユースケース化、自動化し、クラウドサービスに統合できれば、それだけ環境のスケーラビリティーが向上します。また、リソース使用状況のレポート作成機能やリソースの使用に応じた課金機能も必要となります。

(4)セキュアなマルチテナント環境
 複数のビジネス部門や異なる企業が同一のストレージハードウエアをセキュアに共有できることが不可欠です。従来は、データの独立性とセキュリティを確保するために、個別のストレージハードウエアが必要でした。クラウドコンピューティングにおいては、効率性を低下させずにできるだけ高度なセキュリティを実現することが求められます。

(5)透過的なデータ移動によるインフラの常時稼働の実現
 提供するすべてのサービスに対して一貫性のあるビジネス継続性とディザスタリカバリプロセスを維持することが不可欠です。従来では許容された「計画停止」という運用も、マルチテナント環境においては難しくなり、メンテナンスはすべて、アプリケーションの処理を中断せずに行う必要があります。

 ここからは、5つの要件ごとに、どのようなテクノロジーが重要になるかを説明していきます。

(1)ストレージ利用効率の向上

 利用率を向上させるストレージ技術は、従来から実装されている技術も少なくありません。それらも含め、クラウド環境においても効果が期待できる技術を表1にまとめます。表1は、米NetAppの製品・技術に基づいたものです。

表1●ストレージ効率化テクノロジー
テクノロジーメリット
RAID 6ダブルパリティ保護機能により、2台のディスクが同時に故障した場合でもデータを保護し、RAID10と比べて同等の信頼性とパフォーマンスを提供しながらストレージ使用量を46%削減可能
重複排除機能ブロックレベルで重複を特定して排除。ほとんどのケースで、ディスクスペースを25~55%削減できる。フルバックアップをディクスに格納する場合は最大95%、仮想サーバーや仮想デスクトップ環境では70~95%程度のスペースを削減可能
シンプロビジョニングストレージは共有リソースとして扱われ、必要な場合にのみ消費される。シンプロビジョニングにより、必要なストレージ容量を20~30%削減可能
スナップショットシステム停止が不要のスナップショットテクノロジー。ソースボリュームへのパフォーマンスインパクトを極小化しつつ、バックアップは数秒で完了する
シンレプリケーション最初のベースライン転送後に「シントランスファー(変更されたブロックのみの差分転送すること)」を実行し、バックアップに必要な帯域幅とディスク容量を削減。複製元ストレージシステムと複製先ストレージシステムの構成は、同一である必要はない
クローニングデータセットの「仮想コピー」を瞬時に作成でき、ストレージスペースが消費されるのはデータセットが変更された場合のみで、1コピー当たりオリジナルの10%程度の容量消費が目安になる。多数の同一コピーを保持する仮想環境に最適なテクノロジーで、そうした環境では約80%のディスクスペースを削減可能

(2)統合的なデータ保護

 マルチテナント環境では、バックアップのためのデータストリームの集中化を引き起こし、サーバーあるいはストレージの物理リソース当たりのバックアップデータ量を増大させます。一方で、増加したバックアップデータ量に応じた所要時間が与えられるわけではなく、バックアップに許容される時間は従来と変わらないか、より厳しい要求となります。

 テープメディアに依存した従来のデータ保護では、即応性に欠ける面があり、要件を満たせないでしょう。そこで、基本的にはディスクベースのバックアップ/リカバリ手法を採用します。ディスクベースであれば、サーバーリソースに影響を与えない効率的かつ迅速なバックアップが可能となります。

 このアプローチによって、データ保護の作業負荷をサーバーからストレージに移行し、クラウドインフラ全体にわたって一貫したデータ保護が可能となります。その結果、可用性を確保し、リスクを軽減する効率的なデータ保護インフラを実現できます。

 次回は残り3点に関するストレージテクノロジーを説明します。

阿部 恵史
ネットアップ マーケティング部 部長
2006年にネットアップ株式会社に入社し、2007年8月より現職。ネットアップ入社以前は、製造系企業の情報システム販社、外資系ITベンダーなどで、企業の基幹系システムの提案・設計・開発・導入、インターネットテレビ開発、UNIX系ハイエンドサーバーおよびクラスタシステムの導入コンサルティングなどの業務を経験。2002年よりマーケティング職に転身し、主にデータセンター自動化、グリッドコンピューティング、SOA、運用管理などのソリューションマーケティングを担当。現在、SNIA Japan理事およびグリッド協議会運営委員。