米国国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology、NIST)が定義した「クラウドコンピューティング」の特性を備えたシステムをユーザー企業が主体的に構築するもの。それを、本連載では「プライベートクラウド」と定義しています。

 ストレージ分野に関して筆者なりにNISTの定義をとらえると、特にストレージ分野に関しては「増え続ける情報量への対応」と「予測できないストレージ需要への対応」が重要になります。

クラウド構築に立ちはだかる壁

 まずは、プライベートクラウドに向かう上で立ちはだかる壁を整理しておきましょう。

増え続ける情報量
 ユーザー企業の情報システムは、多くの場合そのインフラ環境はシステムごとにサイロ化しており、手動による対応など手順も複雑で柔軟性がありません。運用は非効率で、変更および追加を行う際には、高いコストがかかります。また、IT投資に関しては、運用が複雑なことなども影響し、既存の維持管理に約70%以上費やすことが必要であり、新規投資に取り組むことが難しい状況です。

 そんな中、2020年の情報量は2009年の約44倍になるといった急激な情報量の増加が予測されています。これまではデータの増加に対して、新しいストレージを導入したり、既存ストレージにディスクを追加したりするケースが多かったと思います。

 だがこのような対応では、インフラ環境はますます複雑になります。機器購入コストおよび設備コストなどが増加するだけでなく、高いスキルを持った専門家に頼ることが多くなりますので、運用コストは大きく膨らんでしまいます。

予測できないストレージ需要
 現状のインフラ投資は、将来的な需要を見越してかなり余裕をもった先行投資を行っているのが現状です(図1青色の線)。それはある面、無駄とも思われる投資です。しかし、この投資を怠ると、予期できない需要の伸びが発生した場合、設備投資が追い付かずに運用で調整するか、最悪の場合にはビジネス損失が発生する恐れがあります。次世代インフラは、実際の需要に応じて柔軟に増減できる、図1黄色の線であることが望ましいです。

図1●インフラストラクチャのコスト
図1●インフラストラクチャのコスト

物理ストレージから仮想ストレージへ

 「増え続ける情報量」と「予測できないストレージ需要」という二つの課題を解消するには、従来の物理ストレージから仮想ストレージに移行していく必要があります。

段階的に拡張可能なスケールアウトするストレージプールの実現
 ストレージインフラを複雑にしないようにするにはストレージ統合が有効で、その手法として注目されているのが仮想ストレージです。仮想ストレージにより、ストレージ装置内のグローバルメモリー・CPUリソース・システム帯域などの資源を共有し、物理位置に依存しない効率化されたストレージシステムを構築できます。しかも、無停止でのファームアップや構成変更が可能で、段階的に拡張可能なディスク装置を効率的に使用することが可能になります。

階層化ストレージの採用
 物理ストレージで管理されている場合には、1種類のファイバーチャネルドライブを使用していることが一般的です。しかし、個々のディスクには、さまざまな要件をもったデータが保存されており、非常にアクセス頻度が高いデータや単なるバックアップ的に保存され、あまりアクセスしないデータも存在します。階層化ストレージを導入すれば、これらさまざまなデータを適材適所に配置し、アクセスの効率化を図り、ストレージコストや設備コストを含めた全体的なコストを下げることも可能になります。例えば、アクセス頻度が多く、高レスポンスを要求するデータはフラッシュドライブを使用し、バックアップ的なデータは容量を重視したSATA(1T/2Tバイト)に配置することも可能になります。

仮想プロビジョニングによるストレージ内の共通プール領域を使用
 ストレージ内に共通プールを作成し、実際に使用したいデータ領域をこの共通プールから使用することで、予期できないデータ増加に対して迅速な対応が可能になります。これは、一般的にはシンプロビジョニングと呼ばれています。時間の経過とともに増加変動する需要に合わせたディスクスペースの確保が迅速に可能になり、スペースの効率化が図れます。

笹沼 伸行
EMCジャパン テクニカル・コンサルティング本部 プロダクト・ソリューションズ統括部 マネージャ
Symmetrixディスク装置を中心としたハイエンド・ストレージ・チームのマネージャとして、各種プロダクトの日本での担当責任を担っています。EMCには、SEとして10年以上勤務していますが、今年からプロダクト・マーケティングとして、新製品の販売戦略なども担当しています。