デストップ仮想化はサーバー仮想化と同じ技術を利用するが、企業で導入するとなるとサーバー仮想化よりも少々敷居が高い。というのも、初期導入コストが高いからである。コスト削減効果が明確で、投資に障壁が少ないサーバー仮想化とは対照的である。
この課題については、デスクトップPCやノートPCの価格が大幅に下がっていることもあり、解決される見込みはまだない。そのため、デスクトップ仮想化を実現するには、その予算確保や稟議申請のために、導入の目的やメリットを明確にした上で、費用対効果について十分に整理することが求められる。
今回からデスクトップ仮想化の導入法について解説していくが、筆者の経験上、「計画フェーズ」では上記の点をクリアすることが最も重要である。
まずはデスクトップ仮想化の効果をしっかり見極めよう
デスクトップ仮想化は、クライアントPCの現状や設計次第でその効果の度合も異なってくる。そこで、改めてデスクトップ仮想化の効果について整理しておきたい(表1)。
期待できる効果 | 利便性 向上 セキュリティ向上 | コスト削減効果 | 備考 |
---|---|---|---|
端末のデリバリーに要する工数削減 | ○ | ○ |   |
ハードウエアが統一されるため、ハードウエアに依存した不具合への対応が容易になる | ○ | ○ | PCを一括交換している企業では効果が少ない |
デスクトップをセンターに集約化するため、人事異動があってもPCを移動させる必要がない | ○ | ○ | オフィスが1拠点だと効果はやや少ない |
1人で複数のデスクトップを利用できる | ○ | ○ | 仮想マシンのリソースは同時起動するデスクトップの台数分だけ必要(OSライセンスは削減される) |
デスクトップを個別に廃棄する処理がなくなる | ○ | ○ | 台数は少ないがサーバーの廃棄は発生する |
性能劣化による買い替えがなくなる | ○ | ○ | サーバーの買い増しは必要 |
サーバー側に集約し、適切な管理のもとで運用するため可用性が向上する | ○ | ○ | 万一、障害が発生したときは影響が大きい |
メモリーやCPUなどのリソースの追加や削減がサーバー側の設定のみで行える | ○ | ○ | リソースに余裕があることが前提 |
OSの変更に伴うPCの買い替えがなくなる | ○ | ○ |   |
結果的にペーパーレスにつながる |   | ○ | 会議室など社内でネットワークや電源の整備が必要 |
稼働率が下がる夜間は、サーバーリソースを別の用途に転用できる |   | ○ | 運用調整が可能な場合のみ |
ユーザーデータやデスクトップ環境をバックアップしやすい | ○ |   | バックアップ用のストレージリソースや、バックアップ取得のためのCPUリソースは必要 |
作業場所にかかわらず、常に同じデスクトップ環境を利用できる | ○ |   | 移動プロファイルの導入だけでも一定の効果はある |
ローカルストレージの故障によるデータ損失がない | ○ |   | 万一、センター側ストレージに障害が発生したときは影響が大きい |
手元デバイスにデータがないため、データの持ち出しを制御しやすい。また、端末盗難時もデータの流出はない | ○ |   | 代えがたい効果であるがコスト換算は難しい |
デスクトップ仮想化のメリットというと、PC管理コストを削減できる点は注目されているが、複数のデスクトップ環境を利用できるメリットについてはあまり評価されていないように感じる。デスクトップ仮想化環境では、「インターネットに接続する一般的なデスクトップ」と「インターネットから切り離した高セキュリティなデスクトップ」を各ユーザーに提供可能だ。表1のメリットに加え、データの持ち出しを防いだり、ウイルス感染(特にデータを盗むボット)のリスクを局所化したりするなど、セキュリティの観点でデスクトップ仮想化を評価してもよいのではないかと考える。
企業におけるPCの利用状況によって、各社独自のメリットもあると思われる。そうした点についても具体的に検討していただきたい。
デメリットを解消する施策も検討
デスクトップ仮想化のデメリットには「コスト」にかかわるものが多いが、決して大きな障害にはならない(表2)。PCがサーバーになることで会計上は資産扱いとなってしまうとか、「デスクトップの費用負担や在庫をどのように考えるか」といった課題である。
想定されるデメリット | 利便性 低下 セキュリティ脅威 | コスト増加 | 備考 |
---|---|---|---|
在庫管理よりもリソース管理の方が難しい | ○ | ○ | リソース管理について自動化を推進できれば回避可能 |
初期導入費用がPCの購入費用よりも大きい |   | ○ | 利便性向上や運用コスト削減により結果的にはコスト改善できるが、全面的に仮想化することが前提になる |
経費だったPCが、一部を除き設備になる |   | ○ | リース購入で回避 |
PCの購入がサーバーの購入に変わり、購入手続きが面倒になる | ○ |   | サーバーの追加購入手続きがPC購入手続き並みに容易なら問題ない |
課金計算が難しい | ○ |   | 割り切った課金方式を検討する必要あり |
万が一の障害時は影響が大きい | ○ |   | 現実的には障害発生頻度は低い |
成りすましによるログインがしやすい環境になる | ○ |   | 2要素認証などの対策を実施すれば回避できる |
気になるのは、「初期導入費用がPCの購入費用よりも大きい」という点だろう。利便性向上や運用コスト削減により結果的にはコスト改善できるが、それは全面的に仮想化することが前提になる。デスクトップ仮想化を部分的に実施した場合は、大幅な運用削減効果を得にくいと考えられる。特に、通常はPCのリプレースを平準化し、毎年一定数を順次リプレースすることが多いため、すべてのPCを仮想化するまでに数年かかってしまう点にも留意すべきだろう。