アクセンチュア IFRSチーム
テクノロジー コンサルティング本部
財務・経営管理グループ コンサルタント
芦田 琢治

[Question12]
IFRS(国際会計基準)で有形固定資産は大きく影響を受けると聞きます。具体的に何が変わるのでしょうか?

 有形固定資産の取り扱いについて、IFRS(国際会計基準)と現行の日本基準で大きく異なる点が三つあります。(1)減価償却方法の妥当性検証が新たに必要になる、(2)減損処理が変更される、(3)IFRS初年度適用時の遡及(そきゅう)修正に多大な作業が必要となる、です。

 (1)と(2)はIFRS適用後に受ける影響です。(3)はIFRSを初めて適用する「初度適用」で考慮すべき影響となります。順に見ていきましょう。

減価償却方法の妥当性検証

 まず、新たに減価償却方法の妥当性を検証する必要が生じます。その際の注意点を、「減価償却の単位」「減価償却パターン、耐用年数の測定」「期末日ごとの減価償却方法、耐用年数の再評価」の三つに分けて説明します。

●減価償却の単位

 IFRSでは、有形固定資産項目全体の取得原価に関して、「重要となる取得原価を持つ資産項目の構成部分については個別に減価償却しなければならない」としています。有形固定資産を構成部分(コンポーネント)に分けて考えることから、コンポーネントアカウンティングとも呼びます。

 コンポーネントの典型例として、特定の期間ごとに交換が必要な部品や機器が挙げられます。よく出てくるのは飛行機です。例えば「エンジン部分」と「エンジン以外の部分(機体など)」の耐用年数をそれぞれ測定し、個別に減価償却を行うことになります。

●減価償却パターン、耐用年数の測定

 IFRSでは、「減価償却方法は、資産の将来の経済的便益が企業によって消費されると予想されるパターンを反映するものでなければならない」としています。

 日本では税法によって、資産種別ごとに減価償却パターンや耐用年数を詳細に規定しています。多くの企業は税法基準との適応性を重視し、会計基準として採用していると考えられます。

 一方IFRSでは、採用した減価償却パターンや耐用年数が「経済的便益の消費パターン」を反映していると立証する必要があります。税法基準を採用している企業では、従来にはなかった減価償却方法の決定プロセスが必要となります。

 例えば日本の税法では、2007年3月31日以前に取得した資産について、税法上の帳簿価額が取得価額の5%に達した時点で、翌事業年度から5年間の均等償却により残存価額1円まで償却することとなっています。IFRSではこうした償却方法の妥当性を立証することは困難で、見直す必要が出てきます。

●期末日ごとの減価償却方法、耐用年数の再評価

 IFRSでは、有形固定資産を事業年度ごとに再評価し、減価償却方法や耐用年数を見直す必要があります。

 日本では税法基準を会計上も採用し、再評価を定期的に実行していない場合もあると考えられます。結果として、資産の除却時に多額の除却損を計上することもあります。定期的な再評価により、こうしたケースが減少すると考えられます。

減損処理の変更

 続いて、減損処理の変更です。減損処理は、資産の収益性が低下して、思っていたとおりの価値を生み出さなくなった場合に行います。「減損の認識」と「減損の戻し入れ」に分けて見ていきましょう。

●減損の認識

 IFRSでは経済実態に沿うように、「資産に回収可能価額を超える価額が付されている場合には、資産は減損しているものとされ、減損損失を認識すること」としています。

 日本の会計基準では、「割引前将来キャッシュフローの総額が、帳簿価額を下回る場合」にのみ、帳簿価額と回収可能価額を比較して減損損失を認識します。これに対し、IFRSでは日本基準のような前提条件を設けていません。帳簿価額と回収可能価額との比較のみで減損を認識するため、減損損失の認識自体が早期化すると考えられます。

●減損の戻し入れ

 日本基準は、減損の戻し入れ処理を認めていません。一方IFRSでは、「過年度において認識された減損損失は、当該資産の回収可能価額の算定に用いられた見積もりに変更があった場合にのみ、戻し入れしなければならない」としています。減損累計額を上限として減損の戻し入れが認められるため、資産ごとの減損累計額の情報を保持することなどによって、戻し入れに対応する必要があります。