システム運用の費用を下げるために、現状よりも利用料金の安いデータセンターを活用したい。こう考える企業は多いことだろう。

 実は、工夫次第では、データセンターを乗り換えるためのコスト、つまりシステムの引っ越し代をタダにできる。近鉄エクスプレスが実践した。

輸送費と引っ越し向けの保険代をカット

 「コスト削減のためのシステムの引っ越しに費用がかさむのは本末転倒だ」と近鉄エクスプレスの森長純二情報システム部長は言う。

 同社は、基幹系システムを動かしていた米国のデータセンターを2010年3月に変更した。同じテキサス州ダラス市内で、以前よりも利用料金の安価なデータセンターに乗り換えた。新しいデータセンターの月額利用料金は日本円換算で約250万円。従来が1000万円だったので、データセンターの利用料金を4分の1にした。

図1●近鉄エクスプレスが実施した新旧データセンター間のシステム移行手順
図1●近鉄エクスプレスが実施した新旧データセンター間のシステム移行手順
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 それにしても、どのような方法で引っ越し代を事実上タダで済ましたのか。タネ明かしをすると、近鉄エクスプレスは従来のデータセンターで利用していたサーバーをすべて廃棄することで、輸送費と引っ越し向けの保険代をカットしたのだ()。

 これを実現するためには、引っ越し前に、用意周到に事を進めておく必要がある。近鉄エクスプレスは、従来のデータセンターで使っていたハードウエアを一切更新せず、減価償却期間を終了させておいた。データ移行作業を終えたらいつでも廃棄できる状態を意図的に作り出したのだ。

 データ移行の費用については、米国のシステム子会社の担当者に任せることで、「ゼロに抑えた」(森長部長)。

 通常の方法で実施していたならば、移行期間中に、二つのデータセンターにサーバーを設置することもあるため、二重にハードウエア費用がかかってしまう。データ移行やサーバーの輸送コストも覚悟しなければならない。さらに引っ越しのトラブル時に備えて加入する保険代などもかさんでいたはずだ。データ移行作業を、従来のデータセンター事業者の担当者に委託していたら、その費用も別途かかっていた。