経営環境が大きく変化する中で、情報システムにも変革が求められている。最大の要件は、ビジネスやアプリケーションの変化に備えるプラットフォームの確立だ。ITベンダー各社はどんな基盤像を描いているのだろうか。IBMが主張する基盤像と、それを支えるテクノロジーに続き、同基盤の適用事例を紹介する。(ITpro)

 これまでに、IBMが考える次世代IT基盤像と、それを支えるテクノロジーを提案した。今回は、次世代基盤の適用事例を元に、経営とIT変革の内容について具体的に紹介したい。

 事例として取り上げるのは、米ピッツバーグ大学医療センター(University of Pittsburgh Medical Center。以下、UPMC)である。

UPMCが直面していた課題

 UPMCは、米国ペンシルバニア州にある医療センターだ。約5万人の従業員(うち医師が4000人)が働き、20の病院を運営するほか、在宅ケアやリハビリテーション、高齢者向けサービス、保険などを多角的に展開している(図1)。

図1●ピッツバーグ大学メディカルセンター(UPMC:University of Pittsburgh Medical Center)の概要と課題解決方針
図1●ピッツバーグ大学メディカルセンター(UPMC:University of Pittsburgh Medical Center)の概要と課題解決方針
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 中でもUPMCは、地域における包括的なヘルスケアサービスの提供と先進的医療研究に力を入れている。そのために、積極的な買収や投資をすることで、現在の規模にまで成長してきた。一方でこの成長は、いくつもの課題をも生み出している。UPMCが直面した主な課題を以下に挙げる。

・組織の巨大化
・医療サービスの高度化に伴うインフラストラクチャー強化の必要性
・医療機器や設備への投資圧力
・コスト削減と利用者へのサービス向上の両立
・内部での資本獲得の争い
・先進的研究としての生物情報科学(バイオインフォマティクス)ニーズの高まり
・法規制やコンプライアンスへの対応

 UPMCのIT部門は、上記の課題を受けて、次のようなIT強化の目標を立てた。

・高度な医療サービスを実現するためのEHR(Electronic Health Record)の導入
・医療サービスを支えるための性能、可用性、コンプライアンスの向上
・新規業務用アプリケーションおよび既存の業務やデータの増加を受け入れられるだけの能力の確保
・IT資源の増大とIT予算の増加抑制の両立

 当然ながら、これらの実現は決して容易ではない。相次ぐ買収によって、IT基盤の継続的な成長を阻害する要因が増えていたからだ。具体的には、次のような状況になっていた。

・データセンターがあちらこちらに散在している。その結果、ハードウエアやITスタッフといった資源も散在している
・様々なアプリケーション、ミドルウエア、OS、サーバーが混在している
・サーバーに直結するストレージが多く、過剰配備による資源のムダや管理効率向上の阻害要因になっている。バックアップの一元化が図れないなど、コンプアライアンス対策上も問題である
・元々が別組織だったため、ITの標準やプロセスが林立している。ツールもまちまちで一元的な管理・監視ができない

 UPMCでは、買収により複数のIT部門が一つになり、それぞれが抱えていた問題が増幅されて顕在化した。しかし多くの企業において、たとえ買収といった経過を経ていなくとも、過去からの組織やIT方針などの変化に伴って、同様の問題を抱えているケースは少なくないだろう。UPMCの課題とその解決は大いに参考になるはずだ。