前回に続いて今回も、クライアントソフトのバージョンアップを賢く乗り切るコツを多数の企業事例に基づいて紹介する。現在、多くの企業のシステム部長が気にかけているのが、米マイクロソフト製の最新OS「Windows 7」に移行すべきかどうかという点だろう。OSをバージョンアップすると、互換性やパソコンの性能などが原因で、今まで使っていたソフトの動作に不具合が生じる恐れがある。このリスクを減らす知恵を紹介しよう。

 最新のWindows OSであるWindows 7。これに移行するユーザー企業は少しずつ増えている。先行企業はどのような方法で最新OSに乗り換えたのだろうか。

万が一に備え、仮想化で古いOSも残しておく

 Windows 7にバージョンアップする際の注意点は、Webブラウザーの「Internet Explorer(IE)」だ。仮にWebベースの業務アプリケーションを使っている場合、それがWindows 7で標準のIE 8で正常に動作するかどうか確認が必要である。IE 6で使っていたWebアプリケーションを、IE 8で動かすために改修しなければならないケースが出てくるからだ(3ページ目の別掲記事参照)。

 ホンダの子会社で純正アクセサリー販売を手掛けるホンダアクセスや、聖路加国際病院、リコーといったWindows 7へのバージョンアップを予定しているところは、Webアプリケーションの改修作業の手間を省くため、仮想化技術を採用することを検討している(表1)。仮想化環境を整備して、Windows XPなどの現行OSとその上で動かす既存の業務アプリケーションを、そっくりそのまま生かし続けようというわけだ。

表1●取材したユーザー企業におけるクライアントソフトのバージョンアップに関する主な取り組み
表1●取材したユーザー企業におけるクライアントソフトのバージョンアップに関する主な取り組み
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 「二つのOSを併用するのは、運用管理の手間とコストが増えるので、できれば避けたい。当社は業務アプリケーションの検証・改修作業を進めている。だが、万が一漏れがあった場合は、仮想化環境で“応急措置”を取る可能性がある」。ホンダアクセスの浅井博情報システム部長はこう打ち明ける。

 古いOSと業務アプリケーションを仮想化環境で動かす。この方法は二つある。サーバー側で仮想化環境を整えるやり方と、クライアントパソコン側に仮想マシンを作る方法である(図1)。

図1●Windows 7にバージョンアップした後でも、古いInternet Explorer(IE)を利用するための方策
図1●Windows 7にバージョンアップした後でも、古いInternet Explorer(IE)を利用するための方策
仮想化技術を活用すれば、バージョンアップ前と同じデスクトップ環境でアプリケーションを利用し続けられる
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 前者については、ホンダアクセスが採用を検討している。同社は、2012年3月までに社内のパソコン1100台をWindows XPからWindows 7にバージョンアップする予定だ。この際の移行シナリオの一つはこうだ。マイクロソフトの仮想化ソフト「Microsoft Enterprise Desktop Virtualization(MED-V)」を使って、サーバー側に構築した仮想マシンで、既存のWindows XPと業務アプリケーションを利用し続ける、である。

 クライアントパソコン側に仮想マシンを作る方法については、リコーが検討している。リコーは2012年3月までに、Windows 2000とXPから、Windows 7へバージョンアップすることを計画している。

 同社はWindows 7の標準機能で、Virtual PC上にWindows XP SP3の環境を構築するための「Windows XP Mode」を使えないかどうか検討している。この機能を使えば、Windows 7のデスクトップから、直接IE 6で動かしていたWebアプリケーションを起動して使えるからだ。

 「1台のパソコンで7とXPを使うのは、動作の安定性や設定、運用管理の手間などの面でよろしくない。改修を優先すべきだ。仮にXP Modeを使うにしても、暫定措置にすぎない」。リコーの西窪幸大IT/S本部IT/S技術センタークライアントグループスペシャリストはこう述べる。