次世代スーパーコンピュータ「京」の開発主体である理化学研究所は、NECに対し損害賠償を求める民事調停を東京地方裁判所に申し立てた。NECは業績悪化を理由に昨年5月、プロジェクトから途中で撤退していた。

 理研の監督官庁である文部科学省は7月28日、民事調停を申し立てたことを明らかにした。文科省の中川正春副大臣は会見で「国として資本を投じてきた。ああ、そうですかとはならない」と語り、NECの撤退で生じたプロジェクトの損害を取り戻したい意向を示した。ただ、民事調停は非公開のため、申し立ての具体的な内容については説明しなかった。

 理研が求める賠償額は数十億円とみられる。関係者によると理研がこれまでベクトル型スパコンの開発に投じたのは86億円であるという。理研はその負担の一部をNECに求めるようだ()。

図●「次世代スーパーコンピュータ」の開発投資額*1<br>*1 複合型システムを目指していた当時の予算額と、当初見積もりから算出<br> *2 現在はスカラー型システムのみを開発しており、開発にかかる総額は1120億円の予定
図●「次世代スーパーコンピュータ」の開発投資額*1
*1 複合型システムを目指していた当時の予算額と、当初見積もりから算出
*2 現在はスカラー型システムのみを開発しており、開発にかかる総額は1120億円の予定
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 次世代スパコンは当初、ベクトル型とスカラー型という計算方式の異なる二つのシステムをつないだ複合システムになる計画だった。だが、ベクトル型の開発を担当していたNECと、NECから一部機能の開発を受託する形で参加していた日立製作所が撤退した。現在は、富士通が担当するスカラー型のみでスパコンを開発する計画に変更している。

 NECが撤退を表明するまでに、理研とNECは「概念設計」と「詳細設計」について7本の委託契約を結んでおり、これから製造に入る、という段階だった。

 ベクトル型の開発はやめたものの、文科省や理研は「ベクトル型開発の成果の一部は、今後に生かせる」としてきた。そのため、開発に投じた86億円全額ではなく、そのなかで無駄になったと考えられる部分について賠償請求するもようだ。

 次世代スパコンの開発計画は当初から7年をかける予定だったが、国の予算の関係で、理研とNECは単年度ごとに個別契約を結んでいた。契約に「開発から途中で撤退する場合は違約金を支払う」といった文言はないようだ。

 理研は「調停の具体的な内容についてはコメントできない」としている。NECも同様で、「今後調停のなかで我々の考えを主張していきたい」(広報)とする。文科省は調停が成立した場合、内容を公表する意向だ。