文化審議会著作権分科会の法制問題小委員会は2010年8月3日/5日に、第7回会合/第8回会合をそれぞれ開催した。法制問題小委員会は、一定の条件の下で著作物を許諾なく利用できる「権利制限の一般規定」(日本版フェアユース規定)の導入についての具体的な検討を進めており、中間まとめ(2010年5月21日の著作権分科会で報告)において、一定要件の下で権利制限の対象にすべき行為として、三つの類型(A類型、B類型、C類型)を示した。第7回会合/第8回会合では、中間まとめに対して意見を提出した団体を招き、この三つの類型についてのヒアリングを行った。

 中間まとめにおいてA類型は、「著作物の利用を主たる目的としない行為に伴い付随的に生ずる著作物の利用であり、かつ、その利用が質的または量的に社会通念上軽微であると評価できるもの」とされている。例えば、写真や映像の撮影に伴い、本来の被写体に加えて、意図せずに著作物である美術品や音楽を複製する行為(いわゆる写り込み)がこれに当たる。B類型は、「適法な著作物の利用を達成しようとする過程において合理的に必要と認められる当該著作物の利用であり、かつ、その利用が量的または質的に社会通念上軽微であると評価できるもの」である。漫画のキャラクターの商品化を企画して、著作権者に許諾を得るための企画書を作る際に漫画の複製を行う場合などが対象になる。C類型は、「著作物の種類や用途などに照らして、当該著作物の表現による利益の享受を目的としない利用」である。例えば、映画や音楽の再生に関する技術の開発や、検証のために、必要な限度で映画や音楽の複製を行うといった場合は、この類型に該当する。

「これではまだ不足」と賛成派

 これらを権利制限の一般規定の対象にすることについて、日本弁護士連合会やデジタル・コンテンツ法有識者フォーラム、日本知的財産協会、電子情報技術産業協会(JEITA)などが賛成した。ただし、こうした団体からは、一般規定の対象はまだ不十分という声も上がった。例えば、日本弁護士連合会は、「権利制限の一般規定は、従来の個別制限規定では対処できない、新しい技術や利用行為を柔軟に対象するために創設されるもの。現時点では予測されていない技術や利用行為についても、権利者の利益を不当に害しない利用であれば、柔軟に適用できるような規定を設けるべき」と述べた。デジタル・コンテンツ法有識者フォーラムは、「日本がコンテンツ大国になるためには世界から抜き出るような法制度が必要」とした。「より広い範囲を対象にするフェアユースがあってもいいのではないか」という意見である。一方、JEITAは、類型化をすると、個別規定に近付いてしまうことから、「個別規定に比べて対象を柔軟に設定できる一般規定のメリットを生かすべき」と主張した。

反対派は個別規定での対応を主張

 一方、権利者団体の多くは一般規定の導入に反対した。本人が意図せずに著作物を複製してしまう「写り込み」を違法行為から除外するとしても、「個別規定で対応するのも一つの考え方ではないか」(日本映画製作者連盟)という声が上がった。一般規定の導入により、「利用行為を認めることで、言い逃れや居直り、間違った解釈による違法行為が起こる」(コンピュータソフトウェア著作権協会)、「未成年がフェアユースを誤解して、犯罪行為を行ってしまうことになりかねない」(JASRAC)と懸念を示す。このほかに、著作権関連の法制度の見直しを巡る議論について、「法制度が現状に合わなくなっているという認識は権利者も変わらない。しかし議論が利用の円滑化に偏っている。権利者が対価を得る機会を失っている点は改善されていない」(実演家著作隣接権センター)と議論の方向性の偏りに疑問を呈した。

 賛成派と反対派の意見の違いが顕著に表れたのが、A類型の条件となっている「付随的に生ずる著作物の利用」や、A類型およびB類型の「その利用が量的または質的に社会通念上軽微」という記述である。賛成派からは、「付随的ということで制限されていいのか。質的または量的に軽微という表現が本当に必要なのか。目的を踏まえて、総合的に判断されるべき」(デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム)と、柔軟な運用ができる法制度を要望した。それに対していわゆる写り込みなどは個別規定で対処すべきという立場の反対派は、「我々は資金を投入して映画を制作している。軽微な利用だからいいという考えはない」(日本映画製作者連盟)と、主張した。