サーバー仮想化やクラウドサービスといった言葉が、ICT業界を賑わし続けている。その前提となるのが、データセンターの活用である。いまや、自営か専用業者のサービスかといった違いはあるものの、データセンターは企業ユーザーにとって欠かせない存在になりつつある。

 ただ、データセンターには省エネと管理コスト削減という大きな課題がある。経済産業省資源エネルギー庁による省エネ法改正(2009年)では、エネルギー使用量が1500kWhを超える事業者は企業全体での省エネルギー対策を迫られることになった。データセンター事業者や電気通信事業者の多くは、まさにこれに当てはまる。

 一方、CPUの高性能化やサーバーの高集積化によって、床面積当たりの消費電力と発熱量は増加し続けている。さらに大規模化が進んでいることもあって、管理コストや空調などのコスト増大を避けられない状況にある。

 重要なのは、省エネとコスト削減を両立させるための取り組みである。具体的には、省電力化、熱対策、設備運用管理の効率化だ。ただ、一口にデータセンターの省エネ、コスト削減と言っても、対象となる範囲、項目は幅広い。そこで本稿では、データセンターの省エネ化に向けた管理手法について解説する。前編(今回)では基礎となる指標の考え方、後編では改善に向けたアプローチを紹介することにする。

管理指標、事実上の標準は「PUE」

 省エネを進めるためには、エネルギー消費効率の目安が不可欠である。そこで日本国内では、グリーンIT推進協議会が中心となって、データセンターのエネルギー効率指標の標準化に取り組んでいる。

 ただ米国では既にグリーングリットが「PUE」(データセンター全体の消費電力/IT機器関連の消費電力)と「DCiE」(PUEの逆数で、ファシリティ電力効率)を指標として提唱している。既に国内で、これらの指標を使用しているケースがある。ここではPUEについて説明しよう。

 PUEは、データセンター全体の消費電力をIT設備の消費電力で割った数値である。ここでいうデータセンター全体の総消費電力は、(1)UPS(無停電電源装置)、開閉装置、発電機、PDU(配電装置)、充電装置といった電力供給コンポーネント、(2)冷却装置、CRAC(空調設備)、直膨式のエアーハンドラ、ヒートポンプ、クーリングタワーといった冷却システムコンポーネント、(3)サーバーやネットワーク、ストレージ、(4)照明関連その他のコンポーネントといったものだ。

 このPUEを活用すれば、IT設備を追加する際に、データセンター全体で必要な電力増加量を想定できる。例えばPUEが3.0だとして、IT設備の追加によって1000ワットの電力が増えるとすると、データセンター全体では3000ワットの追加電力が必要だということになる。

 例を示すと、国内では、CTC(目白坂)のPUEは1.46、日立製作所は1.6以下、NTTコムウエア(東京DC)は5年後の目標を1.3、そして日本IBM(幕張DC)は1.8となっている(参考1参考2)。米グーグルのデータセンターの場合は、驚いたことにPUEが1.21と報告されている

設計次第でPUEは大幅に下げられる

 米国のグリーングリッドの調査では、米国の平均的なデータセンターはPUEが2.0~3.0程度とされている。ただ、データセンター全体を適切に設計することで、PUEを1.6程度にまで改善できるという。具体的には、気流の設計、通気口の配置、冷却システムの選択と配置、そしてサーバーの構成(仮想化)といったものだ。注意したいのは気流と冷却。単にシステムを冷やすのではなく、データセンター全体を効率的かつ適度に冷やすように考えることだ。

 まず、気流(Air Flow)と冷却(Cooling)のコーディネーションの単純な変更によってPUEを改善できる。フリーアクセスフロアの穴を閉めたり、穴の空いたタイルや気流整流装置を配置したりして、ホットアイル(熱気の通り道)とコールドアイル(冷気の通り道)をきちんと作る。こうした気流の改善によってサーバーの表面温度が下がると、空調システムの還気温度が上がるため冷却効率が改善され、エネルギー消費量が減少する。気流マネジメントのベストプラクティスを採用することによって年間6%の節約が可能だといわれる。

 この際、複数の異なる空調システムを使っていると、空調システム同士が結果として悪影響を及ぼし合うことがある。一つの空調システムで湿気を減らす半面、他の空調システムで湿気が上がったり、その他の空調システムによって大気温度が上がるといった現象である。設計に際しては、こうしたことまで考え合わせる必要がある。ただ、こういった状況の診断には、エキスパートが必要になる。同様に、通気口付き床タイルの数、タイプと配置といった床のタイルマネジメント、冷却能力を向上させるエコノマイザーという装置の選定・導入も重要である。

 もちろん、そもそもサーバーの消費電力そのものを減らす工夫も欠かせない。そこで効果的なのがサーバーの仮想化である。仮想化技術を採用し、サーバーを物理的に集約することによってサーバーの台数を大幅に削減できる。もちろんサーバーハードウエアの機種によるが、一般には1台当たり200~400Wの電力消費量を節約できるといわれる。

 PUEの改善を徹底して進めるなら、こうした様々な取り組みを積み重ねていく必要がある。ただ、漫然と取り組むだけでは必ずしも高い効果を得られるとは限らない。重要なのは、各パラメータを左右する設備を一元的に管理し、適切に対策を打つこと。次回は、管理方法について解説する。

新美 竹男
テリロジー取締役経営企画本部長