システム共同化の波にのまれず、システムの自前開発を維持する信用金庫がある。信金のおよそ94%に当たる263金庫が、NTTデータや日本ユニシスが提供する勘定系システムを共同利用しているにもかかわらずだ。なぜ、「長いものに巻かれない」のだろうか。京都信用金庫、播州信用金庫、川崎信用金庫に取材し、自前開発を推進するための体制や取り組みなどについて探った。<日経コンピュータ2009年10月28日号掲載>

 「システムを自前で開発することが競争力の向上につながる、と経営陣も我々も考えている」。京都信用金庫の松井哲二システム部長はこう語る。これは播州信用金庫、川崎信用金庫も同じだ。3信金は、勘定系システムや情報系システムなどを自前で開発し、運用・保守を手掛けている(図1)。

図1●信用金庫の勘定系システムの現状(2009年10月9日時点)
図1●信用金庫の勘定系システムの現状(2009年10月9日時点)
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図2●信用金庫が勘定系システムを自前開発する場合と共同化する場合の主なメリット
図2●信用金庫が勘定系システムを自前開発する場合と共同化する場合の主なメリット
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 3信金に共通する狙いは、「勘定系システムを自前で持っていれば、新商品・サービスの実現に必要となるシステムの機能追加・変更を素早く実施できる」ということだ。地域特性を考慮した金融商品・サービスを提供するためのシステムを機動的に構築できる、との読みもある(図2)。自社のシステム部員に情報化の実務を担わせることで、ITスキルを維持することも期待しているのだ。

 こうした自前開発に取り組む信金は今では、少数派である。大半の信用金庫が勘定系システムの共同利用に踏み切っている。現時点では、249の信用金庫が、NTTデータが運営する「信用金庫共同システム」を利用している。日本ユニシスの「北海道アウトソーシングセンター」や「SBOC東京」を活用しているところもある。

新たな開発手法で生産性向上:京都信用金庫

 京都信用金庫(京信)は京都市に本店を構える信用金庫大手だ。京都市を中心に大阪や滋賀にも店舗を持つ。2009年3月期の預金積金残高は2兆1671億円である。

 京信の勘定系や情報系システムの開発、運用・保守を担当するのが、全行員1743人の約3%に相当する53人のシステム部員だ。自前開発を進めているだけあって、「預金積金残高が同じぐらいの信用金庫と比べて、我々のシステム部員数は10~20人ぐらい多い」(京信の松井部長)。

 当然のことながらシステム部だけで、開発や運用・保守のすべてを進めることはできない。京信は長年、日立製作所と付き合い、開発、運用・保守の実務を支援してもらっている。

図3●3信用金庫が採用している主なハードウエア
図3●3信用金庫が採用している主なハードウエア
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 勘定系や情報系などのシステムを稼働させるハードウエアも、日立製品で統一している。(図3)。これらのハードウエアで動かすシステムを、京信はすべて自前開発している。市販のパッケ ージ・ソフトは使わない。

 「パッケージをそのまま使ったほうが、自前開発するよりもコストを抑制できる。このことは、我々が試算した結果からもわかっている。だが、新商品・サービスを投入するために必要になる機能追加・変更作業を迅速に進めるには、システムを自前開発しておく方が有利だと考えた」。松井部長は、自前開発の方針を貫く理由をこう語る。

 京信は、システム開発効率を高めるために、新たな取り組みにも積極的だ。その一つが、日立の新しい開発手法「Experience Oriented Approach(Exアプローチ)」だ。Exアプローチは日立で家電などのデザインを手掛ける「デザイン本部」で蓄積したノウハウを基に、顧客との合意形成に必要なプロセスとスキルをまとめたものだ。

 営業店窓口システムを2008年に刷新した際、システム開発の要件定義以前の“超上流”工程で、Exアプローチを活用した。システム部門と営業部門は、新システムの狙いや導入効果などを可視化しながら議論、合意した。これにより、営業窓口システム構築プロジェクトは「以前よりも、開発段階での手戻りが少なかった」(松井部長)という。「今後もExアプローチを使い、開発生産性を高めていく」(同)。

 ただし、何からなにまで自前開発に固執しているわけではない。京信は今年9月、信金で初めて投資信託のオンライン販売を始めた。この投資信託システムについては自前で開発していない。

図4●京都信用金庫は日興コーディアル証券のシステムを活用し、投資信託のオンライン販売を手掛けている
図4●京都信用金庫は日興コーディアル証券のシステムを活用し、投資信託のオンライン販売を手掛けている
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 この理由について松井部長は、こう話す。「我々の商品知識やシステム化のノウハウの面から考えて、プロである証券会社のシステムを活用するのが得策と考えた」。

 京信は日興コーディアル証券のシステムを利用している(図4)。勘定系システムと日興コーディアル証券のシステムを、しんきん情報システムセンター(SSC)の中継システムを介して接続。リアルタイムにデータをやり取りできるようにしたことで、即日決済を可能にしている。