中野 和弘/テレハウス・ヨーロッパ

 お前は地球温暖化を信じているのか---。ランチを食べている時に、テーブルを共にしていた英国人の上司から何気なく質問を投げ掛けられた。奇妙に思い調べてみると、驚くべきことに、2010年2月に英BBCが行った世論調査では「気候変動(地球温暖化)が起こっており、その主な原因は人間の活動にある」と考えている英国人の割合は、わずか26%だけだった。

 こうした世論とは別に、英国政府は二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの削減に積極的である。2008年11月に世界で初めて法的拘束力を伴う温室効果ガス排出削減の長期目標を設定するなど、気候変動政策において世界を先導している。この目標を実現するためには、全体の4割を占める民生部門の省エネ対策の推進がキーとなる。

 その具体策として、2010年4月から年間電力消費量の合計が6000MWh(電気料金で換算すると約1億3500万円)を超える事業者を対象に、炭素削減義務スキーム(CRC:Carbon Reduction Commitment)が適用されている。この制度は、年度初め(4月)に事業者がCO2排出権を政府から購入し、年度終了後にCO2排出量や排出削減の達成度に応じて政府から還付金を受け取るというものだ。

最新データセンターで進めるCO2削減対策

 私が属する、KDDIグループの欧州データセンター(DC)拠点であるテレハウス・ヨーロッパは、2009年に9万4000MWhの電力を利用しており、当然CRCの対象となる。最近では、企業のアウトソーシングやクラウド・コンピューティングの利用拡大により、DCの電力需要は増加の一途をたどっており、CO2削減対策がDC事業においても喫緊の課題である。

 そうした背景から、2010年4月に当社がロンドンにオープンした最新のDCビルは、環境を意識した「グリーンデータセンター」を標榜し、様々な省エネ・環境対策を施している。

 そのいくつかを紹介すると、太陽光発電パネルの設置、ラック室内の空調効率を高めるホットアイル/コールドアイルの採用、DCの廃熱を利用した温水の地域住民への無償提供、高効率な最新式UPSや人感センサー式照明の採用などがある。従業員の通勤形態も、自家用車から自転車や公衆交通網へ変更するように推進している。これらの施策により年間1100トンのCO2削減を果たした。

 CO2削減とは関係ないが、英国政府の環境に対する意識の一端が分かるエピソードがある。新DCビル建設予定地で英国の保護鳥の巣が見つかり、ひなの巣立ちまで、行政当局の指導で工事が数カ月中断したことがあった。保護鳥1羽のためにそのような強制措置を実施する英国政府に、環境政策を進めていく強い意志を感じた。

中野 和弘(なかの かずひろ)
テレハウス・ヨーロッパのビジネス開発部でプロジェクト・マネジャーを務め、英国でのデータセンターサービスの営業企画を担当。これまで、オリンピックなどの大規模イベントにおける放送局向け映像伝送サービスに携わってきた。本場のラグビーをスタジアムやパブで観戦するのが今の楽しみ。