モバイルの世界では現在、スマートフォンのプラットフォームが乱立している状態にある。このなかで急成長しているのが米グーグルのAndroid。だが、将来にわたって成長ペースを維持するためには、いくつかの課題を克服する必要がある。Androidを中心にスマートフォン市場の最新動向を分析する。


小川 敦/情報通信総合研究所 研究員

 米グーグルが2010年4月16日に発表した第1四半期の決算によると、売上高は対前年同期比23%増の67億5000万ドルと増収を達成した。発表資料には明記されていないものの、期中に多数発売されたAndroid端末やそれに関連する様々な動きが、今期の好業績に何らかの形で関与したと筆者はみている。だが、その成長を減速させかねない問題が顕在化してきている。今回はグーグルのAndroidを軸に、スマートフォンプラットフォームの動向を概説する。

 モバイルの世界は現在、多くのスマートフォンプラットフォームが乱立している状態にある。端末ベンダー各社は生き残りをかけて現状を打破する方法を模索している。例えばフィンランドのノキアはLinuxベースのMeeGoを米インテルと共同開発し、スマートフォン市場での巻き返しを図っている。韓国のサムスン電子は独自の新プラットフォームBadaを立ち上げつつ、AndroidやWindows Mobileも並行して同社端末に採用する意向を示している。

 このような状況のなかで、最も成長が著しいのはAndroidだ(図1)。現在、Android端末のベンダーは世界で30社近くに上る(リリース予定含む)。ここまではAndroidの推進主体であるグーグルの方策が奏功しているといえる。

図1●2010~2014年の搭載プラットフォーム別スマートフォン台数予測
図1●2010~2014年の搭載プラットフォーム別スマートフォン台数予測

克服すべきは断片化問題

 Androidが将来にわたって成長ペースを維持するためには断片化問題は避けて通れない。断片化問題とは、同じOSの異なるバージョンが市場に併存し、アプリケーションの互換性の対応が不十分になることを指す。例えばAndroid 1.5に対応しているアプリがAndroid 2.1と互換性があるとは限らない。そのため開発者にとって、アプリ製作にかかる時間的・経済的コストの負担が重くなっている。

 英調査会社のIMSリサーチは、この断片化問題の主因はAndroidが採用しているApacheライセンスだと指摘する。同ライセンスは著作権表示さえ順守すればソースコードを公開することなく無保証・自己責任の下でソースコードを改変できる。また、頒布先のライセンシーに対してAndroidの修正を反映することを義務付けていない。このような自由度の高さから、ライセンシーは意欲的にプログラムを改変しようとする。同時に、派生的(2次的)著作物が広がり、それが断片化につながってしまう。

 一方、Symbian OSはスマートフォンプラットフォーム競争ではかなり後れを取っているが、断片化問題では有利だ。Symbianが採用するソフトウエアライセンス体系はGPL(GNU General Public License)である。GPLはApacheとは対照的に、ソースコードの公開が義務付けられており、派生的著作物についてもGPLでライセンスされる必要があるなど厳しい条項を持つ。このためSymbianはAndroidに比べて断片化が生じにくい構造となっている。実際、Symbianで公開されている標準API(Application Programming Interface)を使って開発したアプリは、Symbian搭載端末ならどれでも問題なく動作する。

 断片化問題で不利だからといってAndroidの成長速度が深刻に落ち込むとは考えにくいが、優秀な開発者を確実にAndroidにつなぎ止めるためには、グーグルは何らかの方法でAndroidの断片化問題を解決する必要がある。対処を怠れば、断片化はさらに進行する。