現在の国家IT戦略である「新IT戦略」は、担当である労組出身の川端文部大臣でも、本部長であり、いまだ「INS」レベルの菅総理大臣でもなく、ましてやこれまた労組出身の直嶋経産大臣でもなく、戦略名に自分の名前を冠した原口総務大臣が、現実的なリーダーシップを持っている。少なくともそのプレゼンスは最大である。ということは、新IT戦略の中でも原口ビジョンに沿った部分は最も政府が本腰を入れることが予想される。つまり、日本のIT戦略は原口ビジョンを中心に考えた方が現実的なのかもしれない。
IT業界としてはありがたい「ICT関連投資倍増シナリオ」
4月に公表された「原口ビジョンII」の内容は、総務省の「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」を中心に議論されたもので、大きく以下の3つのモジュールで構成されている。
(1)ICT維新ビジョン
(2)緑の分権改革の推進
(3)埋もれている資産の活用
原口ビジョンIIの各項目は、表1のとおりだ。
まずは、「『光の道』100%の実現」だが、これは光ファイバー網を全世帯に普及させるというものだ。基本的な方向性は、「『光の道』構想実現に向けて」に示されている。ソフトバンク孫社長の肝いり政策としても有名だ。さらに、この中では「NTTの在り方」も議論されていて、この部分は通信業界にとってさらに生臭い部分だ。
また、「光の道」の10年間の経済効果が73兆円とされているがどうだろうか。基盤整備は、民主党の嫌う「コンクリート」投資に等しいし、第一、使いたいコンテンツがなければ、国民はどんなに便利でも使いはしないだろう。鶏と卵のような議論になるが、だからこそ、コンテンツの施策も別項目で入っているのかもしれない。
次に、「日本の総合力の発揮」による3%成長の実現に目を向けると、この部分に健康・医療・介護、教育、コンテンツ、電波ビジネスといった今後の新市場創出に関する重要施策が入っている。
この中に「ICT関連投資倍増シナリオ」が入っていて、IT業界としては、非常にありがたい話となっている。これは、ICT投資を毎年9%程度ずつ増加させ、現在の20兆円規模を10年間で40兆円に倍増させるというものだ。それには当然、そのための投資市場が必要で、それが、健康・医療・介護、教育、コンテンツといった戦略分野になるわけだ。このあたり、野党時代の民主党にはなかったマクロ経済の考え方が取り入れられていて、与党としての成長が伺える。
環境に関しては、民主党政権が昨年国際公約としたCO2削減1990年比25%削減の内、10%分をICTで賄うという施策も入っている。この中では、ICTによるCO2削減(by ICT)とICT自体のCO2削減(of ICT)が分けて議論されていて、構造的に分かりやすい。
of ICTに関しては、ICTを活用すれば当然電気の使用量が増え、CO2排出量が増加するが、それを省エネ技術で、2020年に1990年比2.4%増までに押さえる。by ICTに関しては、2020年に1990年比12.3%減少させ、それらを相殺してマイナス10%としている。
ちなみに、電子行政は「ICT維新ビジョン」の中に入っているが、この分野は後述の「緑の分権改革の推進」の中にも自治体クラウドとして入っている。自治体クラウドに関しては、既に総務省内で大きく取り上げられ、6月の政務三役会議では、関連法案を来年1月の通常国会で成立させるとされているし、新IT戦略の工程表では、2012年から本格的な展開が始まる予定となっている。原口ビジョンIIの目論見どおり30%のコスト削減ができれば、2015年までに年間1200億円以上が節約される計算だ。
原口ビジョンIIも、新IT戦略の工程表と同様に、個別政策にロードマップがついている。これは、実現性は別として、これまでよりは高く評価されてしかるべきだろう。