日本のヤフーが米Googleの検索エンジンを採用するというニュースは海外のメディアでも大きく取り上げられている。そもそも第一報を伝えたのは米Wall Street Journalの技術系情報サイトAll Things Digital。同メディアは米国時間7月26日、ヤフーが決算発表を行う米国時間の同日中にも同社が正式発表を行うと報道。「米Microsoftと米Yahoo!の包括的な提携への驚くべき一撃だ」と伝えた。

 これを受けて米Bloomberg Businessweekも、ヤフーの長野徹広報室長に電話取材したという記事を掲載。「ヤフーはまだ最終決定していないものの、検討中であることは確かだ」と伝えていた。

 この話題はその後も海外メディアをにぎわした。MicrosoftのDave Heiner法務副顧問兼副社長がその後同社の公式ブログで独禁法に抵触する提携だとGoogleを厳しく非難したこと、Microsoftが日本の公正取引委員会に証拠書類を提出するといったことなどがが大きく報じられた。

米国側には縛られない日本のヤフー

 ヤフーが7月27日に発表したGoogleとの提携は、同社がGoogleから検索エンジンと、検索連動型広告配信システムの提供を受け、その一方でオークションやショッピングといったサービスのデータをGoogleに提供するというもの。ヤフーは現在米Yahoo!の検索エンジンを利用しているが、米Yahoo!がMicrosoftの検索エンジン「Bing」に切り替えることが決まっているため、対応を迫られていた。

 ヤフーの株式は、筆頭株主のソフトバンクが約40%を保有しており、米Yahoo!は約35%の第2位株主だ。つまり日本のヤフーはYahoo!が他国で展開している事業とは異なるため、Yahoo!とMicrosoftが結んだ提携の影響を受けることはない。これによりヤフーは、BingかGoogleのいずれか、あるいはそれ以外のシステムへの移行について検討していた。

 MicrosoftのDave Heiner氏によると日本における検索市場のシェアは、Googleが51%、ヤフーが47%。同氏は「もしこの提携が許されてしまったら、Googleは日本で不動の地位となり、そこには市場競争というものは存在しなくなる」と批判している。一方でヤフーは、「(この提携は)検索エンジンと検索連動型広告配信システムに限定されており、サービス自体はそれぞれが独自で行う。Googleとの競合関係はこれまでと変わらない」と説明している。「公正取引委員会とも事前に相談をしており、問題がないことを確認している」(同社)と強調している。

「公取委の判断にあぜんとした」と米国の弁護士

 海外の報道はその後も後を絶たない。Wall Street Journalは、公取委の松山隆英事務総長が「事前に受けた説明内容であれば、直ちに独禁法上の問題にはならない」と述べたことを受けて、「この公取委の判断は、米国司法省や欧州委員会のアプローチとは異っており、業界関係者を驚かせている」と報じた。

 MicrosoftがYahoo!の買収を断念した後、GoogleとYahoo!は両社が提携することで合意した。しかし米司法省が独占禁止法に抵触する恐れを懸念したため、計画を撤回したという経緯がある。Yahoo!はその後、Microsoftと提携を決め、MicrosoftのBingと広告配信システム「adCenter」を導入することになった。

 Wall Street Journalによると、米法律事務所Orrick, Herrington & Sutcliffeで独禁法担当のTed Henneberry弁護士は、「日本の公取委は非常に慎重で、早急に結論を出さないことで有名。その同委員会がもっと時間をかけて検討しなかったことにはあぜんとした」と述べている。

 GoogleとYahoo!の関係、あるいはGoogleという企業そのものについて米国や欧州の規制当局が広範に調査していることを考えると、公取委の対応は理解に苦しむという。「徹底的な調査が行われないまま、誰かが市場で90%のシェアを取ってしまうという状況が生まれる。あの公取委とは思えない」と同氏は述べている。

 Wall Street Journalの記事では、慶応義塾大学法学部の田村次朗教授の見解も伝えている。それによると同氏は、「検索エンジンというのは検索語が増えるにしたがって機能が強化されていくもの。そうした今の検索ビジネスの側面を公取委は完全に把握できていないのではないか」と指摘している。「提携によってGoogleは日本市場で90%以上のシェアを支配することになる。こうした状況で同社の検索エンジンはどのライバル企業のサービスよりも向上していくことになる」(同氏)