iPhoneやAndroidが搭載されるデバイスの多くは、「タッチパネルディスプレイ」を全面的に採用している。これは指をディスプレイに触れて操作するもので、従来のPCや携帯端末とは操作方法が大きく異なる。マウスを使ってポインタを操作するというかつての見慣れたユーザーインタフェース(以下、UI)は全面的に見直されることになる。

 マウスを使ってポインタを操作するのと、指で操作するのでは、操作の感覚が全く異なる。後者のほうがより直感的であり、肉体的だ。従って、アプリケーションの設計において、「いかにユーザーの立場に立ってUIを考えるか」ということが比較的大きなウェイトを占めてくる。UIの良しあしが、アプリケーションの使いやすさにそのまま直結してくるからである。

画面1●「iPhone Dev Center」サイト
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 iPhoneアプリケーションの開発においては、米Appleがデベロッパー向けに定めた「iPhoneヒューマンインターフェイスガイドライン」と呼ばれるものが存在する。PDF形式の文書で100ページ以上に及ぶほどの分量であり、Appleがこれまでに培ってきたUIに関するノウハウの結集ともいえる文書だ。この文書は現在、Appleが提供するiPhoneデベロッパー向けのサイト「iPhone Dev Center」(画面1)でダウンロードできる。

 この文書は二つのパートに分かれており、パート1では、モバイルアプリケーションのUIにおけるAppleの基本的な哲学が書かれている。パート2でより具体的に、UIを構成するそれぞれのオブジェクトについての説明と、それらの効果的な使い方が詳細に提示される。

 アプリケーションのUIを設計するときは、原則としてこのガイドラインにのっとって設計しなければならない。ガイドラインから大きく逸脱するような独自のUIを構築してしまうと、App Storeへのアプリケーションの申請がリジェクトされる恐れがあり、注意が必要だ。実際、App Storeへの申請時にリジェクトとなった事例を集めたサイト「Reject Database for iPhone Developer」でも、ガイドライン違反によるリジェクトの事例がいくつか見られる。

画面2●「Android Developers」サイト
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 ところが、一方のAndroidではそういったUIに関するガイドラインが細かく規定されていない。詳しくは「Android Developers」のサイト(画面2)で読むことができるが、主にアイコン、ウィジェット、アクティビティーとタスク、メニューの四つの項目で構成されており、iPhoneのそれと比べると簡素な内容だ。

 AndroidアプリケーションのUIを設計する際に指標と呼べるようなものは現状ほとんどなく、デベロッパーは、プリインストールされたアプリケーションを参考にするか、独自のUIを新たに構築せざるを得ないのが実情である。ガイドラインに沿ってさえいればそれらしいUIが構築できるiPhoneアプリケーションに比べると、AndroidのUI設計はデベロッパーの能力に大きく依存してしまうといえる。

 Androidアプリケーションは、iPhoneアプリケーションに比べると開発の自由度が高いとされている。しかし、自由度の高さは両刃の剣でもある。アプリケーション間で操作体系が統一されていなければ、ユーザーを混乱させてしまい、結果としてユーザーの学習コストの肥大化につながる。また、独自性の強すぎるUIは、ユーザーに敬遠されてしまう恐れがある。

 Android開発元の米GoogleはこうしたUIに対する懸念を抱いているようで、今後はメーカー独自のUIを禁止する方針に転換するようだ。いずれにせよ、独自のUIを構築することは避けたほうが無難だろう。

渡島 健太(わたしま けんた)
アシアル株式会社 エンジニア
1987年福岡生まれ。Perlで書かれたCGIスクリプトの改造がきっかけで初めてプログラミングに触れる。2009年にアシアル株式会社に入社。以後、同社が近年積極的に展開するスマートフォン事業に従事し、Android向けアプリ開発のほか、iPhone向けサイトのデザインなども手がける。