これまでRFPの作成に関するさまざまなポイントに対して解説を行ってきたが,ここでは少し視点を変えて,RFPの作成前に取り組むべき作業について説明しよう。

 当連載の「業務要求とアウトプット RFPにおける業務要求の洗い出し目的とは」で,RFP作成は調達フェーズの作業の一つであるという説明をしているが,その「ITリソースの調達」の前工程は一般に「情報化企画」と呼ばれている。

 情報化企画をひと言で説明すると,「経営戦略や事業目標の実現のために,ITでできることを明確化する」ということになる。経営戦略や事業目標を達成する方法としては,IT化だけでなく,組織などの人材系の企画や資金調達などがある。情報化企画とは,非IT系の経営戦略企画をも踏まえた上で,特にITによる計画を具体化していく活動である。

 情報化企画の成果物は「情報化企画書」あるいは「IT化グランドデザイン」などと呼ばれる。ここでは内容をイメージしやすいようにIT化グランドデザインと呼ぶ(図2)。

図2●情報化企画の概要
図2●情報化企画の概要

 情報化企画からITリソースの調達へとフェーズが進行するときに,当然のことながら成果物であるIT化のグランドデザインの内容がきちんとRFPに受け継がれなければならない。そこで特に重要になるのがRFPの趣旨(目的・背景・狙い)の部分である。当連載の最初の「趣旨(目的・背景・狙い)の実践的まとめ方」で,その重要性をしつこく述べているのは,この情報化企画からの流れを趣旨できちんと受け取り,引き継ぐことが非常に重要だからである。

 情報化企画のフェーズはきちんと時間を確保して,相応のメンバー構成でじっくりと議論をするのが理想的である。しかし,現実的には,さまざまな制約によって情報化企画の練り込みが不足した状態で,調達を行わざるを得ないケースも多い。そのような場合でも,最低限,次の四つに関してはRFPを書き始める前に,きちんと整える必要がある。それができないと調達活動が失敗に終わる可能性が非常に高くなる。

(1)IT化の目的・背景・狙いの明確化

 RFPの趣旨をきちんとまとめる(連載の「趣旨(目的・背景・狙い)の実践的まとめ方」を参照)。

(2)調達スコープの設定

 想定する新システムについて,業務,ユーザー,システムの視点から範囲・規模感を明らかにし,開発方針やおおまかな予算なども決めておく。

─業務の対象範囲
 新システムの対象となる業務範囲を明確にする。
─ユーザーの対象範囲
 対象となる業務を行い,新システムを利用予定のユーザーはどこに(部署や支店など)何人いるかを洗い出す。
─システムの対象範囲
 再構築の対象となるシステム範囲,新規に追加されるシステム範囲を明確にする。特に対象のシステム範囲と対象外の周辺システムとの境界を正確に定義する。
─開発方針(パッケージ利用か自社開発か)
 もちろんベンダーの提案を見て最終決定すればよいのだが,現実的にはどちらの方針かを決めておいた方が調達活動は進めやすい。
─予算
 情報化企画の段階で,新システムに対する投資対効果を検証し,それにより予算感を持つことが理想ではあるが,情報化企画そのものが不足した状況ではそれを望むことは難しいだろう。この段階では,前述した新システムの範囲・規模感,パッケージか自社開発か,そして会社としての予算の枠や上限などから算出される大まかな予算感は持っておきたい。

(3)チームの編成と会議体の設定

 RFPを作成するチームを編成し,会議体を設定しておく。具体的な内容については,「RFP作成前に行う作業:チーム編成と会議体の設定」の項で説明する。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
1963年東京都出身。イントリーグ代表取締役社長兼CEO,NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て,ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画,96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング,RFP作成支援などを手掛ける。著書に「RFP&提案書完全マニュアル」(日経BP社)。