ビデオリサーチは2010年7月24日に、ワンセグの視聴測定実証実験を行った。名古屋の民放5社の協力を得て、ワンセグのデータ放送領域に視聴測定用スクリプト(プログラム)を書き込んだ番組を放送して、研究協力モニター(600人に協力を依頼)の視聴情報を携帯電話機から通信経由で回収した。今回の実験の仕組みや背景、さらには2011年7月以降について、デジタル事業推進局企画部課長補佐の澤井喜代司氏に聞いた。

 ビデオリサーチは、据え置き型テレビの視聴率調査を行う際に、番組の音声をマッチングしてチャンネルを特定する。今回の実験では、測定機を使わず、自宅ではなく出先で番組を視聴する人も捕捉できる方式を採用した。

 今回の実験は、在名民放5社が同じ時間に一斉放送を行う特別番組「東海地区地デジ化推進イベント番組BigWave2010『地デジでシアワセ!』」で実施した。一度だけ質問に答えてもらい、モニターがワンセグ端末で番組を視聴したら自動的に通信回線へ接続できるようにして、「手動で操作しなくても視聴情報を送信できるようにした」という。複数局の一斉放送番組を選んだ理由について澤井氏は、「様々な種類の放送設備で今回のワンセグ視聴率調査を正常に行うことができるかを確認したかった」(澤井氏)と説明する。今回の実験は、「トラブルもなく無事に終わった」という。

将来的なニーズの高まりに備え

 澤井氏によると、「ワンセグ端末を視聴率調査の対象に加えてほしいというニーズは、現時点では顕在化していない」という。にもかかわらず、今回実験に踏み切ったのは、「2011年以降にニーズが高まったときに対応できるようにしておく」という狙いがある。

 ビデオリサーチは、地上放送の完全デジタル化を機に、視聴習慣の変化が起きる可能性があるとみている。「例えば、20代の独身者を中心に、地上放送の番組はワンセグで見ればいいと思う人が出てくるのではないか」という。

 現在、ビデオリサーチは、テレビ視聴率の調査対象を据え置き型テレビに限定している。しかし、視聴者がテレビ番組を視聴する端末が多様化することを想定して、ビデオリサーチは視聴率調査の対象端末のジャンル拡大に向けて準備を進めている。

 今後、据え置き型テレビ以外でテレビ番組の視聴メディアとしての存在感を高める端末としては、パソコンが一番大きい」と見ている。同社は2011年7月に、テレビチューナー内蔵パソコンでのテレビ視聴を視聴率調査の対象に追加する。対象になるのは、部屋に据え置きされていて、テレビアンテナに接続されているパソコンである。

タイムラグに対応する測定機を投入

 2011年7月にビデオリサーチは、パソコンでのテレビ視聴に対応する測定機を導入する。パソコンではCPUやメモリーなどの性能によって、テレビ番組を表示するまでの時間が左右される。このため、「通常のデジタルテレビに比べて若干のタイムラグが発生する」(ビデオリサーチ)ケースがあるという。パソコンで視聴中の番組を正確に特定するには、音声の遅延に対応する必要がなる。このためビデオリサーチは2011年7月に、従来から利用してきた音声比較アルゴリズムを遅延に対応できるように調整した上で測定機を導入する。

 ビデオリサーチは、2009年2月に最新の接触率調査の取り組みを紹介するイベント「Data Vision 2009」を開催し、テレビチューナー内蔵パソコンでの視聴番組の把握に向けた展示を複数披露していた。例えば、音声比較アルゴリズムを調整した測定機に加えて、パソコンにインストールした専用ソフトをテレビ視聴ソフトと連動させて接触状況を調査する方法などを展示していた。ビデオリサーチは検討の結果、「測定機を使う手法が最も適していると判断した」という。

 ビデオリサーチは2011年7月から、全国でパソコンでのテレビ視聴を調査対象にしたい意向である。ただし、全国の視聴率調査の対象世帯にパソコンでのテレビ視聴に対応する測定機を設置するには相応の人手やコストが必要になり、一度に対応するには限界がある。対応が済んだ地区から順次パソコンでのテレビ視聴を調査対象に加えることも視野に入れている。

 ビデオリサーチはパソコン以外にも、インターネット上の動画サイトでの番組視聴や、HDD内蔵レコーダーによるタイムシフト視聴にも対応できるように、研究を進めている。HDD内蔵レコーダーによるタイムシフト視聴に対応するために、録画動画の再生を正確に把握する技術の実用化などを目指している。