コスト削減やITの俊敏性向上を目的として、プライベートクラウドの構築を検討する企業が増えてきている。昨今のサーバー仮想化技術の普及なども相まって、企業は比較的容易にインフラを統合し、共有リソースプールの構築に取り組むことができるようになった。
ここでいう共有リソースプールとは、サーバーやストレージのインフラをシステムごとに個別に用意するのではなく、複数のシステム共通のインフラ基盤として用意するものである。
クラウドの概念と仮想化技術を利用し、共有リソースプールを構築することで、リソースを無駄なく運用してコストを削減し、必要な時に必要なサービスを提供することができる柔軟性の高いプラットフォームが整う。例えば、サーバー仮想化技術でサーバーリソースを統合し、コンピュータリソースを無駄なく運用するといった具合だ。
ただし、こうし共有インフラを、コスト効率を高く保ちつつ、安全に運用するには、リソースプールのキャパシティー管理を怠ってはいけない。以下では、主にサーバー仮想化による共有リソースプールを例に、キャパシティー管理について解説する。
利用率の現状と変化を把握し最適化する
企業情報システムのインフラはこれまで、システムごとにインフラを導入し、管理、運用する形態が主流だった。そういった個別最適型システムの運用では、どちらかというと障害監視などのインシデント管理に注意が向きがちで、性能管理などのキャパシティー管理の優先度は低かったといえる。
これまでは、個々のシステムを導入する際にサイジングを行い、ある程度余裕を持ったインフラを導入してきたことで、多くの場合リースアップまでキャパシティー問題が起こることはなかった。このような個別最適型システムの特徴が、キャパシティー管理を脇役にしてきた理由の一つであろう。
一方、共有リソースプールの運用では、リソースの枯渇は複数システムに影響を与える重大な問題に発展しかねない。例えば、月末処理に負荷のかかるシステムがリソースを過剰に消費し、リソースを共有している複数システムのパフォーマンスが極端に低下してしまう、といったことが起こり得る。
だが逆に、リソースを過剰に用意し、リソースの利用率を低い状態で運用するようでは、そもそものプライベートクラウドの目的であるコスト効率というメリットが損なわれてしまう。
こうした状況を避けるには、システム全体の利用率の現状と変化を把握し、リソースの過不足が生じないよう、リソースを最適化するキャパシティー管理の仕組みが不可欠である(図1)。
中長期のデータを分析して変更を計画
共有リソースの最適化運用を実現するには、まずCPUやメモリー、ネットワークI/O、ディスクI/Oなどのリソース利用状況の可視化ができる仕組みが必要だ。そのためには、これらのリソース利用率を収集し、データとして蓄積する。そしてそのデータや傾向をグラフ化して可視化できるとよいだろう。
リソース利用率の変化のサイクルは、日次処理や月次処理といったビジネスの特徴に応じてさまざまである。従って、ビジネスサイクルを包含するだけの中長期間のデータを蓄積できる仕組みがよい。可視化したデータにより、現状のリソースの過不足を把握することが可能になる。
次に蓄積したデータを分析して変更を計画する。サーバー仮想化を例にとると、リソースの利用がサーバーごとに偏っているようであれば、仮想マシンを配置する物理サーバーの変更を計画したり、リソースに不足が見込まれるのであれば、新たな物理サーバーの追加を計画したりする。
また新たなシステムの導入が見込まれるのであれば、それを踏まえた計画を立案する。共有リソースプール上にはさまざまなシステムが動作することになるため、それぞれのシステムの傾向を考慮し、ピーク時に過不足なくリソースを提供できる計画にする必要がある。
ただし、こういった作業は人手で行うにはそれなりの手間が掛かる上、経験と勘に頼らざるを得ないという課題もある。そのため、これらの作業を支援するツールの導入も検討するとよいだろう。
リソース利用率の自動収集機能や時系列での収集データの可視化機能、共有リソースの変更をシミュレーションして計画立案を支援する機能などを備えるツールが提供されている。例えば「HP Insight Dynamics」は、これらの機能を備えたインフラ管理ソフトウエアの一つである。
プライベートクラウドの構築では、まずキャパシティー管理の仕組みを導入することを検討しよう。そして必要に応じてツールを活用することで、コスト効率と柔軟性の高さを両立したプライベートクラウドの実現が可能になる。
日本ヒューレット・パッカード ESSプリセールス統括本部 インダストリスタンダードサーバー技術第一部 ITスペシャリスト