「ビジネスアナリシス」という活動の普及啓蒙活動を行う非営利団体IIBA(International Institute of Business Analysis)の日本支部組織であるIIBA日本支部)は、2009年12月から、「ビジネスアナリシス知識体系ガイド(BABOKガイド)Version 2.0」日本語版(写真)を出版開始している。ビジネスアナリシスとは、一般的に、ビジネスニーズに基づいて、ビジネスの問題を解決する解決手段(ソリューション)を決定する活動を指す(BABOKによる詳しい定義は後述)。

写真●「ビジネスアナリシス知識体系ガイド(BABOKガイド)Version 2.0」日本語版(IIBA日本支部発行)の表紙
写真●「ビジネスアナリシス知識体系ガイド(BABOKガイド)Version 2.0」日本語版(IIBA日本支部発行)の表紙
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 このBABOKは、登場以来、さまざまなメディアで取り上げられるなど、広く関心を集めているが、その実態についてはまだまだ理解が進んでいないように思われる。メディアで提供されているBABOKの解説も、BABOKの要約解説や側面解説にとどまっているのが現状だ。

 その一方で、要求定義を含む超上流の活動の切り札として紹介されることは多い。一種のBABOKブームの様相だ。しかし、BABOKの本質的な意味の理解なしのBABOK礼賛は、近い将来、なんらかの反動を生み出すに違いない。

 そこでこの連載では、可能なかぎりBABOKの本質を見据えた解説を心掛けたい。BABOKが必要とされるようになった背景からはじめて、BABOKはそもそもどのように有用なのか、その制約はなにか、といったことを解説する。

 BABOKを実務に適用するためには何が必要とされるのか、といった観点からも、一歩踏み込んて解説する。これにより、「BABOKを現実の問題解決に役立ててみたい」と考える方にも参考になるような連載にしたいと考えている。第1回目の今回は、BABOKが登場した背景やBABOKにおけるビジネスアナリシスの定義などを紹介する。

重要性が認知されてきたビジネスアナリシス

 IIBAは、2003年10月にカナダのトロントで設立された。会員数は全世界で1万2000人強、90の支部が活動している(2010年7月時点)。IIBAのCEOであるKathleen Barretによると、2年から3年内をメドに会員数を3万人にまで増やすとしているから、急速に成長している組織と言えるだろう。これは、ビジネスアナリシスと呼ぶ活動の重要性が認知されてきた結果と言えるのではないだろうか。

 事実、IIBAでBABOK開発の責任者を務めるKevin Brennanによると、北米におけるビジネスアナリシスの活動に対する認知は一般化しており、とりわけ金融・保険あるいはグローバル製造業といった業界におけるビジネスアナリシスの活動の成熟度は極めて高いものがあるとしている(図1)。

図1●北米におけるビジネスアナリシスを実践している組織の業界分布
図1●北米におけるビジネスアナリシスを実践している組織の業界分布

 日本におけるビジネスアナリシスに対する認知はまだまだこれからであるが、日本においてもグローバル製造業の一部でビジネスアナリシスの活動を高度に展開している企業や、金融・保険業界に取り組みを本格化させようとしている企業があるなど、日本でも数年遅れで同様な活動の発展があるものと考えている。

 またこの数年の間に、北米ではさらなるビジネスアナリシス活動の急速な進展があるようだ。

 図2は、2007年から2009年のわずか2年の間に、北米においてビジネスアナリシスの専門機能組織が設立され、その比率が高くなっていることを示している。

図2●ビジネスアナリストは最終的にどの機能組織にレポートするか?
図2●ビジネスアナリストは最終的にどの機能組織にレポートするか?
ビジネスアナリストはビジネスアナリシスの実践者のこと。ビジネスアナリシスの専門組織に属しているビジネスアナリストが増えている。
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 BABOKはこのようにビジネスアナリシスに対する取り組みの発展の中で、その必要性が認識され、登場してきたということができるだろう。

 IIBAは、ビジネスアナリスト(ビジネスアナリシス活動の実践者)を支援するために、「ビジネスアナリシス・プラクティス標準」(ビジネスアナリシスの実務の中で実践され有効性が認められてきた活動の集合)としてBABOKを位置づけ、その開発・保守を、活動の目的の一つに位置付けている。ちなみにIIBAのビジョンとミッションは、以下の通りだ。

  • IIBAビジョン
    ビジネスアナリストのための世界トップレベルの団体となること。
  • IIBAミッション
    ビジネスアナリシスのプラクティスおよびその実践者認定のための標準を開発し保守すること。

 なお、IIBAは、ビジネスアナリストを、専門職種を指す用語としては使っていない。プロジェクトマネジャーなどさまざまな職種の人が、広くビジネスアナリストの役割を担うとしている。