宮之本 伸/NTTコミュニケーションズ インド現地法人

 インドに赴任して早4年半以上。当初は新鮮に感じていたインド特有の事情も、最近では当たり前と受け止めるようになってきた。

 外国企業がインドに進出した際に社員が直面する典型的な問題は、まず携帯電話の契約が難しいことだ。インドではテロ犯罪に携帯電話が多く使われるため身元を厳しく審査される。申し込みに必要な書類は10種類ほどあり、書類不備を理由に契約を断られるケースが後を絶たたない。

 書類が整っているにもかかわらず、固定電話・インターネット回線を引けないというケースもある。実際に私がマハラシュトラ州で直面したケースでは、ある外資系メーカーの工場建設が完了し、生産設備の搬入が終わっているにもかかわらず、インターネットや電話を引けなかった。すべての電気通信事業者が、「採算が合わない」とサービス提供を拒否したのだ。

 インドのアクセス回線は架設ではなく、ケーブルを地下に埋設するのが一般的。夏は50度近くになる場所で、近くの交換局から工場まで何キロも掘削する。結局、度重なる交渉の末、15カ月かかってようやく固定電話とインターネット回線を開通できた。

 インド赴任以来、直接の現場監督として通信・ITセットアップを75件担当してきたが、「建物の中はどうにかなる。どうにもならないのは建物の外の通信インフラ」とつくづく感じている。

道路工事で通信ケーブル切断

 インドでは道路工事の際、通信ケーブル一つをとってもどこに何が埋設されているかほとんど関心が払われていない。建設機械により通信ケーブルが切断されることが多々あるのだ。

 昨年の夏などはほぼ毎日通信ケーブルの切断に直面した。道路工事を監督する当局に申し入れても、全くらちが明かない。「道路工事は中断しない。1年たてば道路工事は終わる」の一点張りで、担当する企業の工場で固定電話もインターネットも使えず仕事にならなかった。

 最終的に取った対策が「待ち伏せ作戦」である。道路掘削の司令塔である工事現場事務所に行って1週間分の工事予定表を入手し、それに基づいてケーブルが切断される可能性が高い場所で我々が待機する。切れたら1分でも早くつなぐ作業を繰り返すわけだ。この対策前は最寄りのセンターから作業員を派遣していたので、現場到着まで最低30分はかかった。それが「待ち伏せ作戦」によって、切れた場所をすぐ特定でき、現場到着にかかる時間は事実上ゼロとなった。

 このような想定外の様々な事件によって、現場の対応力が随分と培われたと思う。IT大国でBRICsの一角を占めるインドでもこういった地道な活動が欠かせない。

宮之本 伸(みやのもと しん)
インドに5 拠点を持つNTTコミュニケーションズ インド現地法人社長。「不測の事態が頻発し、大河ドラマのような毎日を経験。それが豊富な経験とノウハウになって、ますますお客様から頼りにされる。まさに組織としての問題解決能力が日々高まっている。その手応えが小気味よい」と感じている45歳男性。