米国での通信業界の会合などにパネリストや講師として参加すると、同席メンバーから「日本のブロードバンドはすごい」と賞賛を受ける。ただし、賞賛の対象は、帯域の広さや普及率、提供価格が中心だ。確かに広帯域のブロードバンド回線は普及しているが、どう使いこなしているかという観点から見れば、必ずしも日本が進んでいるとは言えない。
肌で感じるリテラシーの高さ
米国に住んでいると肌で感じることだが、米国民のインターネットリテラシーは高い。日本では考えにくいことだが、それなりの取引額の商談がネット上で完結することも少なくない。また、競合する事業者が手を組んで商用コンテンツを提供している「Hulu」といったWeb映像配信サービスも抵抗なく受け入れられ、収益を生む構造を確立している。加えて、かなりの企業がTwitterやFacebookをコミュニケーションツールとして使いこなす。
携帯電話経由でのインターネット利用という点については、数年前まで少し遅れていたかもしれないが、今やiPhoneをはじめとしたスマートフォンの猛烈な普及で大きく前進した。新型端末iPadは当地でも話題になったが、ニューヨークタイムズ電子版の「4月3日のiPad発売日の販売台数が30万台」、「同時に数百万本のアプリケーションがダウンロードされた」という報道が、端末とネットが融合した形で成長していることを物語っている。
日本から来た出張者が、米国のブロードバンドの主流がDSLやケーブルであり、FTTHでも下り50Mビット/秒程度という実態を知って、「遅くて駄目ですね」というようなコメントを漏らすことがある。「土管の太さ」だけではなく、土管を流れるサービスの質を論じると、そうした認識は違ってくるのではないだろうか。
インフラ増強にも乗り出す
その一方で米国政府は、数字で客観的にわかりやすく説明できる「土管の太さ」論をうまく利用して通信政策の柱を作ろうとしている。オバマ政権が先月打ち出した「全米ブロードバンド計画」(NBP)がそれだ。ブロードバンドサービスの地域差を埋めるべく、「Connect America Fund」を創設しようとしている。このファンドはこれまで電話サービスを対象に運用されてきた「Universal Service Fund」の代わりとして、都市部以外の地域でも都市部と同じような値段と提供条件でブロードバンドサービスを受けられるようにすることを目指している。
もともと、ネットを使う仕組みという「ソフト」の部分については土台ができているところに、このようなハードが備わってくると、さらに米国のネット利用は促進されるだろう。