V-High帯を利用した全国向け「携帯端末向けマルチメディア放送」の特定基地局開設計画の認定に向けて、総務省は2010年7月21日に非公開のヒアリングを行った。7月27日(今日)の午後からは2度目の公開説明会も予定されている。原口総務大臣は都内で行われた講演で、8月中ごろには結論を出したいと述べている。この発言通りに作業は進むとみられており、いよいよ最終局面に入った。

 7月21日のヒアリングのあと、両陣営は囲み取材に応じた。焦点は、基地局数の違い(コスト)と回線品質である。MediaFLO陣営は、「受信エリアをしっかり確保できていないと、ビジネスにならない。マルチメディア放送(mmbi)の申請内容は理解できない」と主張し、mmbi側は「大電力方式であり、放送のノウハウに基づき、しっかりと回線品質は保たれる」と主張する。この点は6月25日に行われた第1回目の公開説明会のときと大きな変化はなかった。

アピールポイントは「エリア」とKDDI社長

 KDDIの小野寺正社長は、「MediaFLOが有利だとアピールしたい点はエリアだとはっきりと、ヒアリングで回答した。お客さんが買ったけど使えないとなったら、NTTドコモはどう対応するのか」などと述べた。mmbiの置局の考え方について「パワーの問題ではない。大出力で広いエリアをカバーする場合にビル陰など地形難視が品川や新宿などでかなり出ることは、我々のシミュレーションで示した」という。この問題は多数の基地局を用意し、異なる方角から電波を届けることで避けられると主張する。また、出力が大きいと電波が遠方に届き、いわゆるSFN混信が発生しやすいとも指摘した。

 1000億円弱という投資額については、「5年で考えて年200億円という金額は、KDDIにとって耐えられないはずはない」と述べた。事業採算性については、「委託事業者の採算性は十分我々も考えている。ハードの投資金額が小さくても、使えないものだと、誰も使ってくれない」と切り返した。「ヒアリングでは、空き席になったら料金を下げてでも入れてもらわないと困るが、その場合のリスクは誰が負うのかという趣旨の質問があり、もちろんKDDIが負うと回答した」と説明した。

 MediaFLOになった場合に、NTTドコモ側が受信チップの搭載などに否定的な考えを示していることに対して「NTTドコモが受託事業者に出資したいという希望があれば受け入れる。また、魅力的なコンテンツを我々のユーザーが受けていたら、やらざるを得ないのではないか。あまり関係ない」と述べた。

ISDB-Tmm陣営はとことん反論

 当然のことだが、ISDB-Tmm陣営はとことん反論する。NTTドコモの山田隆持社長は、「コンテンツとリーゾナルブな料金、対応端末の3つが重要」と述べた。リーズナブルな料金にするためには、設備投資は安くする必要がある。BeeTVの経験などから、利用料は数百円程度にしないとユーザーが広がらないとみている。ハードの投資コストは極めて重要であり、それでも一定レベルの回線品質を維持するための手法が放送的な考えに基づく大電力による基地局の展開だという。mmbiのユーザー料金に対する考えは以前からのもので、本誌2009年3月9日号でも「これは日常生活に必要だと位置づけられるようなものにして、月額1000円とか2000円とかいうものではなく、もっと安価な料金で広く利用されるものにできたら」と、mmbiの石川昌行氏は述べている。仮にMediaFLOに決まった場合の対応については山田社長は、「(事業の採算性などから)、NTTドコモは委託事業者にはなれない。端末の受信機能搭載も、実績が出るまで待つ」という考えを示したという。

 現場は、「安かろう、悪かろうという指摘は、大きな誤解」と強く主張した。例えば、MediaFLO陣営が現在のワンセグが宅内で受信できないケースが多いことを取り上げているが、「ワンセグは地上10mにアンテナを設置することを前提にエリア設計している。ISDB-Tmmは携帯受信に向けて地上高1.5mでエリア設計しており、事情は全く異なる」という。実際、送信電力を上げるなどして、地上デジタル放送に対して受信電界強度が10dB上回るように設計していると説明する。

 大電力方式の課題として、SFN混信が指摘されるが、これについては基地局には遅延時間の調整機能があることを指摘する。つまり、電波が飛びすぎるという課題がある一方で、「対象となる基地局数が少なくなり、調整は容易になる」という。また、ビル陰などの問題については、別のビルからの反射波が飛び込むなど、都市部では多くの場合は結果的にいろんな方角から電波が届くので問題は少ないと説明する。

 開発の進捗については、ワイヤレスジャパンで微弱電波を出力し、それを受ける形のデモを行ったことを例に、要素技術はそろっているとした。また、最重要部品である受信ICに関しては、「RF部はISDB-Tとほぼ同じであり、現在は既に複数の半導体メーカーによる低消費電力版の開発競争が始まっている段階」という。

そして、2回目の公開説明会

 今日(7月27日)行われる第2回公開説明会は、第1回公開説明会などで相手の主張が分かった上で実施される。前回、相手が示した疑問に対して互いが答えることを期待したい。例えば、mmbi側には「エリアの考え方をより具体的に説明すること」を要望したい。逆に、MediaFLO陣営には、ハードのコストがソフト事業の足を引っ張らないのか、というmmbi側からの疑問により詳しく答えてほしい。どれだけ説得力のある回答をできるかが第2回公開説明会の成否のカギになるだろう。そして、そのことが審査の透明感を増すことになる。