政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が、2010年5月11日に「新たな情報通信技術戦略(新IT戦略)」を公表し、当初予定から大幅に遅れて6月22日に、新IT戦略を実行に移すための工程表を決定した。

 工程表では、新IT戦略で示した施策について、短期(2010~11年)、中期(2012~13年)、長期(2014年以降)の時間軸別に、担当する府省が具体的な取り組み内容を示すことで、責任の所在を明確化した。これまで民主党政権には、ITに関するビジョンや政策が見られないとの批判があったが、この新IT戦略が民主党政権のIT政策の基本的な考え方といえるだろう。

 本コラム「総合窓口実現のためのABC」では、自治体の総合窓口化、ワンストップ化を促進し、行政の窓口業務を改善していくべきとの立場を取ってきた。そこで今回は番外編として、行政の窓口サービスのワンストップ化が促進されるのかという観点から、新IT戦略の工程表における「1 国民本位の電子行政の実現」に絞って検討してみる。

過去のしがらみを断った電子行政10年の総括を

 新IT戦略では、冒頭の「I.基本認識」として、「過去のIT戦略の延長線上にあるのではなく」と述べ、「非連続な飛躍を支える」ものと記されている。また、「新成長戦略と相まって、我が国の持続的成長を支えるべきものでもある」と、政府の成長戦略との密接な関係を示している。

 そこで工程表では、「(1)情報通信技術を活用した行政刷新と見える化」の冒頭に「i)これまでの情報通信技術投資の総括とそれを教訓とした行政刷新」として、2010年度中に「電子行政推進の基本方針」を取りまとめることになっている。この中で取り上げる教訓の課題克服のための方策をどのように取りまとめられるかが、新IT戦略の命運を占う重要なカギといえる。

 これまで鳴り物入りで10年前から推し進められた「e-Japan戦略」以降の政府の電子行政施策では、確かにブロードバンドの普及などインフラ面での整備は進んだ。しかしながら、行政の窓口サービスのワンストップ化に関しては、必ずしも促進されたとは言い難い。当時、「自治体IT革命」などの美辞麗句のスローガンが席巻し、行政の窓口サービスそのものを単にIT化することが目的となってしまった電子申請は、そのシステム化する対象業務が大幅に増えたものの、利用率はすっかり低迷してしまった。その結果、多くの自治体の行政評価や政府の「事業仕分け」などで断罪され、電子申請システム自体の廃止や休止に追い込まれている。また、電子行政の切り札として、政府が威信をかけて導入した住民基本台帳ネットワークに至っては、その利用の迷走から、いまだ脱しえていない。

 こうした現実をしっかりと見つめ直し、そもそもの電子行政施策の方向性や導入方法などのどこに問題があったのかについて、過去のしがらみを断って検証し、「過去10年間の電子行政」を総括してもらいたい。そうでなければ、今回の新IT戦略も、その実行段階で過去10年間の電子行政の失敗と同じ轍(てつ)を踏むとも限らない。

住民目線に立ったロードマップとは

 新IT戦略では、「1 国民本位の電子行政」の目標の一つとして、「2013年までに国民の50%以上がコンビニエンスストアや郵便局のキオスク端末を使って証明書発行サービスや申請手続きサービスを利用すること」を掲げている。このことは、工程表の「iii)行政ポータルの抜本的改革と行政サービスへのアクセス向上」の中で、取得可能な証明書の拡充として、2010年度中にロードマップを策定することになっている。

 しかしながら、コンビニなどで証明書が取れるようになって喜ぶ人はどのくらいいるだろうか。それよりも、できれば証明書の発行自体をなくしてもらいたいものである。というのも、多くの住民にとって、行政サービスを受ける手続きは、できる限りしなくて済むのがよいからである。

 では、なぜ、そもそもの証明書の発行が必要とされているのだろうか。実は、証明書が発行される多くの原因は、行政の手続きに必要となるからである。こうした実態について、福岡市では、住民情報や課税情報などの証明が必要な手続きを調査した。その結果によると、調査手続き総数211件のうちで、証明元への確認などにより住民からの証明書等の提出を不要としている手続きは54件に過ぎず、別途証明書等の提出が必要な手続きが157件もあることを明らかにしている(「住民情報・課税情報等の証明が必要な手続きの調査について」)。

 こうした行政手続きに必要な証明書の発行は、例えばオンラインで参照することで、発行の手続き自体をなくしてしまってはどうだろうか。当然ながら、法制度上または手続き上、さらにはシステム上、そうしたことができない現実があるだろう。しかし、そうした現実を見直して、不要な手続きをなくすことこそが、住民目線に立って考えると重要なことといえる。ぜひとも、そうした住民目線に立ったロードマップを検討してもらいたい。