仮想化環境向けの運用管理ツールはいろいろある。大きく分けて5つのタイプ(表1)があることは前回述べたが、その中から実際にツールをどう選択すればよいだろうか。考慮すべき点として、もちろん導入コストが挙げられるのだが、ほかにもいくつかポイントがある。今回は、運用管理ソフトの具体的な選択指針と導入時の考慮点について説明したい。
タイプ | 概要 | 製品例 |
---|---|---|
仮想インフラ 管理ソフトウエア |
仮想化の基盤部分であるVMM(Virtual Machine Monitor)やハイパーバイザーや仮想マシンなどを管理するためのソフトウエア | VMware vCenter Server、 Citrix XenCenter、 Microsoft System Center Virtual Machine Manager、 Red Hat Enterprise Virtualization for Servers、Novell PlateSpin Orchestra、 Virtual Machine Manager(virt-manager)、 Karesansuiなど |
サーバー管理 ソフトウエア |
サーバーを管理するための専用ソフトウエア | Parallels Plesk Panel Suiteなど |
統合運用管理 ソフトウエア |
クライアントからサーバーまでシステムを統合的に運用管理するためのソフトウエア | HP Software(OpenView)、 IBM Tivoli、 富士通Systemwalker、 日立製作所JP1、 NEC WebSAM、 NTTデータHinemos(オープンソース)など |
グリッドOS/ クラウドOS |
グリッドコンピューティングまたはクラウドコンピューティング環境を構築するためのソフトウエア | 3tera AppLogic、 Eucalyptus、 VMware vSphereなど |
仮想ラボ 自動化システム |
仮想ラボを構築管理するためのソフトウエア | Skytap Virtual Lab、 Surgient VQMS/VTMS/VDMS、 VMLogix LabManager、 VMware Lab Managerなど |
まず気をつけたいのは、運用規模が極めて小さい(数台の物理サーバーで構成された環境など)場合も、可能な限り仮想インフラストラクチャ管理ソフトウエアを導入すべきことだ。仮想化でもたらされるメリットの多くが、このツールなしでは享受できないからである。
仮想インフラストラクチャ管理ソフトウエアを利用すれば、仮想化に対応した構成/変更/リリース管理が行えるだけではない。加えて、その監視やレポート作成機能を使ってサービス・レベル管理やキャパシティ管理に必要な情報を得ることができる。さらにアドオンなどで提供されている場合もあるが、動的なリソース管理機能やHA機能を搭載している製品では、可用性管理やインシデント管理ができる。
同じ理由から、統合運用管理ソフトウエアを従来から利用しているのであれば、迷わず仮想化に対応したアドオン・パッケージなどを導入すべきである。
ツールの導入ではエージェントに注意
ツールを選択した後、実際の導入段階では、運用管理ソフトウエアのエージェント・ソフトウエアの利用方法を検討していく必要がある。エージェントは運用管理対象のマシンに導入するモジュールで、監視対象マシンから情報を取得したり、監視対象マシンを遠隔操作したりする機能を提供する。
エージェントに関して、まず検討すべき事柄に、どこにどの運用管理ソフトウエアのエージェントをインストールすべきかということがある。
図1に示すように多くの場合、仮想インフラ管理ソフトは、仮想化環境を提供するソフトウエアの「管理OS上に組み込んだエージェント」と通信している。また仮想化したサーバー上のOS(以降ゲストOS)の情報は、ゲストOSにインストールした専用のドライバやエージェントから受け取っている。つまり、仮想インフラ管理ソフトを導入する場合は、新たに専用ドライバやエージェントをインストールする必要がある。
一方で統合運用管理ソフトウエアを使う場合、ゲストOSに統合運用管理ソフトウエアと直接通信するエージェントをインストールすることが多い。なぜなら統合運用管理ソフトウエアには、管理OS側にインストールしてゲストOSを管理できるエージェントを持つ製品が、仮想化環境の運用管理に対応する製品でも少ないためだ。現実には管理OS側から取得する必要がある情報は、仮想インフラ管理ソフトと連携することで入手することが多くなる。
エージェントに関する注意点として、ゲストOS側のエージェントが送るリソース情報に精度や値の問題がある場合があることも挙げられる。
まず基本的に仮想マシンでは、CPU使用率やストレージやネットワークのI/O使用率の監視に使う時間計測の精度が低いことに気をつけたい。
メモリーやストレージの残量に関しても、注意が必要である。仮想化によってゲストOS側が、メモリーやストレージの搭載量として実際より大きな値を渡されている場合がある。
こうした問題の対策として、設定で仮想サーバーに割り当てるメモリーやストレージを常に一定量に固定することが考えられるが、仮想化のメリットの一つである柔軟性を失うことになるため、その影響を十分に評価する必要がある。ただし、管理OSとゲストOSの両方からリソース情報を得られる構成にしておけば、これらの問題が発生しても対処できる。