普及率が130%近くに達した英国の携帯電話市場で、活況を呈している新たなサービスプランがある。料金後払いでSIMだけを提供する「ポストペイドSIMオンリープラン」がそれだ。同プランの展開状況と、その普及に伴い変容しつつある市場の最新動向を解説する。
英国の携帯電話市場は飽和状態にあり、新規獲得がさほど見込めない状況にある。そこで事業者各社はさらなる成長を期待して、料金後払いでSIM(Subscriber Identity Module、シム)だけを提供する「ポストペイドSIMオンリープラン」の導入を積極的に推し進めている。今回は、英国におけるポストペイドSIMオンリープランの展開状況と、その導入で新たな競争局面を迎えた市場の最新動向を解説する。
英国初はオレンジUK、他社も追随
英国初のポストペイドSIMオンリープランは、2007年4月にオレンジUKが始めた。他社も次々と追随し、2009年2月のハチソン3G UKの開始をもってMNO(Mobile Network Operator)全5社のプランが出そろった。バージン・モバイルなど主要MVNO(Mobile Virtual Network Operator)も提供中だ(表1)。
ポストペイドSIMオンリープランはSIMだけを提供し、契約期間は通常1カ月単位となる。端末無しとすることで、販売助成金をカットし、安価な料金を実現している。規制当局Ofcom(オフコム)の報告によれば、O2 UKのポストペイドSIMオンリープランは端末付き18カ月プランの75%相当もの割引に匹敵する(月額基本料金15ポンドプランを基準)。各々の無料通話分数は前者が300分、後者は75分となっている。 飽和市場で純粋な新規ユーザーを大量に獲得することが困難ななか、各社はこのポストペイドSIMオンリープランを主に既存市場において、「自社ユーザーのつなぎ止め」と「他社ユーザーの取り込み」といった守りと攻めの両面の販売戦略に生かしている模様だ。
守りと攻めの両面の販売戦略に活用
守りの戦略の要は、自社プリペイドユーザーのポストペイド移行を促進させることだ。 英国では流動性の高いプリペイドユーザー比率が約6割。飽和市場で収益増を実現するためには、これらユーザーをポストペイドへ誘導することで、解約率の低減やARPU(1人当たりの月間平均利用額、アープ)の増大を図ることが重要だ。経済的負担が大きい従来の端末付きプランでのポストペイド移行は難しいが、プリペイドプランの仕様に極めて近いポストペイドSIMオンリープランを武器とすれば、着実に移行が進むことが期待される。
一方、攻めの戦略においてもポストペイドSIMオンリープランは大きな影響力を持つ。SIMロック解除の手続きを必要とする場合があるものの、ポストペイドSIMオンリープランなら端末の買い替えコストが発生せず、手持ちの端末をそのまま継続利用して他社サービスへ乗り換えられる。各社は格安の料金などを売り物として他社ユーザーの確保に意欲的に取り組むことができよう。
Ofcomによれば、月間の新規ポストペイド契約に占めるSIMオンリープランの比率は既に20%を超えており、英国の携帯電話市場でこのプランが浸透しつつあることを示している。