「Windows Azureを外部に売ることはない」(スティーブ・バルマ ーCEO)──そう言ってはばからなかった米マイクロソフトが、クラウド事業戦略を転換した。富士通、米デル、米ヒューレット・パッカード(HP)にAzureのPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サ ービス)基盤ソフトを供給。各社は2010年後半以降、アプライアンス製品「Windows Azure platform appliance」を顧客に販売したり、自社データセンター内で運用したりする()。

図●富士通、デル、HPを経由してWindows Azureを外販する
図●富士通、デル、HPを経由してWindows Azureを外販する

 ハードはマイクロソフトの設計で、最低でも1000台以上のサーバーで構成するアプライアンスとして販売する。製造は先のメーカ ー3社が行う。「コンテナ型データセンター」となる可能性も高い。

 ソフトは、マイクロソフトが運用するAzureやリレーショナル・データベース・サービスである「SQL Azure」の基盤ソフトと全く同じ。今後追加される新しい分散アプリケーションサーバー「AppFabric」も利用できる。利用企業はパブリッククラウドと同等の拡張性や運用の自動化などを、自社のデータセンター内で実現できるようになる。

 ソフトのパッチ適用などは利用企業ではなくマイクロソフトが担当し、パブリッククラウドのAzureに環境を合わせる。

 利用企業としては、大企業やSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)事業者などを想定。第1号は米イーベイで、オークションサイトの運営に使用する。

 富士通やデル、HPは、アプライアンスを自社のデータセンターでも運用。顧客にPaaSを提供するほか、自社のSaaSを運用する基盤としても利用する。富士通の場合は、群馬県館林市の自社データセンターを使用する。

 PaaS基盤ソフトは、米ヴイエムウェアも外販しており、米セールスフォース・ドットコムが採用を発表した。マイクロソフトは、自社の“.NET PaaS”へハードウエアメーカーを取り込むことを急ぐ。今後は、今回の3社以外のメーカ ーにもソフトを提供する。

 ハードメーカーにとっては、仮想マシンを提供するIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)の実現は容易だが、高度なソフトが必要なPaaSの実現は、ハードルが高かった。マイクロソフトからPaaS基盤ソフトの供給を受けて、PaaS事業者への脱皮を目指す。クラウドを巡る戦いの焦点がPaaSに移ったことが、改めて浮き彫りになった。