今回は、「レビューをしやすくする設計」「レビュー会議の無駄の削減」「支援ツールの活用」という3つのテーマについて見ていこう。

レビューをしやすくする設計:ひと手間が欠陥の見逃しを防ぐ

 設計にひと手間を加えて,レビューでの重大な欠陥の見逃しを防ぐ。そんな取り組みをしている現場がある。

 日立製作所の一部のプロジェクト・チームでは,詳細レベルのユースケース・シナリオを作成している(図1)。石川貞裕氏(情報・通信グループ プロジェクトマネジメント統括推進本部 担当本部長)によると「狙いは,基本設計書のレビューにおいて,性能や信頼性,ユーザビリティなど非機能仕様の妥当性を検証しやすくするため」である。

図1●詳細ユースケースで,実感伴うレビューを実施
図1●詳細ユースケースで,実感伴うレビューを実施
日立製作所では,石川貞裕氏らが主導し,基本設計において詳細レベルのユースケース・シナリオを作成している。レビューアがこれを使って利用場面の具体的なイメージをつかみながら,性能や信頼性など非機能仕様についての設計内容の妥当性をチェックする。検証がしやすくなり,欠陥の見逃しが減ったという
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 従来は,例えばショッピング・サイトのシステムの性能仕様であれば,「商品を購入する」というユースケースにおけるページの応答時間は最大3秒,という記述をしていた。これではレビューアにとって具体的な利用場面のイメージをとらえにくく,最大3秒という応答時間が妥当かどうかを検証しにくかったという。

 そこで「目的別メニューから商品を購入する」というような詳細ユースケース・シナリオを書くことにした。その設計書には,例えば「(IDとパスワードを入れた後)システムは届け先指定画面を表示する」といったプロセスごとに,「ページの応答時間は最大3秒」と記載する。こうすることで,「レビューのとき利用場面のイメージを具体的につかみやすく,妥当でない仕様を見つけやすくなった」(石川氏)という。

シーケンス図にIPOの表を付加

 もう一つの現場は,エスエムジーのプロジェクト・チームである。同社では鈴木貴典氏(システムズコンサルティングディヴィジョン テクニカルコンサルタント)らが中心となり,シーケンス図に「IPO一覧」という表を付加している(図2)。

図2●シーケンス図に書き込む補足情報を,独立した表として記載
図2●シーケンス図に書き込む補足情報を,独立した表として記載
エスエムジーの鈴木貴典氏らのチームでは,シーケンス図のレビューをしやすくするため,補足情報であるIPO(入力データ,処理内容,出力データ)を一覧表にまとめ別途記載している
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 IPOとは「入力データ(Input Data),処理内容(Process),出力データ(Output Data)」の略である。従来,これらの情報は,シーケンス図において,主に「ノート(注釈)」として記載していた。ノートは付せん紙のような形で,その中に文章を記述する。

 ノートはシーケンス図の中で目立つ要素なので,レビューアがノートそのものを見落とすことは少ない。しかし一つのシーケンス図に10個ものノートが記載されていることがあり,それらのノートに,書いておくべき例外処理などの情報が不足していても,気付くのが難しかった。

 IPO一覧を,シーケンス図に付属する表として作るルールにしたのは,この問題を解決するためである。IPO一覧の表にすることで,「必要な例外処理が網羅されているかどうか,処理内容に対して入力データと出力データは妥当か,といったレビューをしやすくなり,重大な欠陥の見落としが減った」(鈴木氏)という。