9.7インチ型のIPS液晶ディスプレイを搭載し、瞬時に起動して使える米Appleのタブレット端末「iPad」は、Webページや動画、電子書籍など、様々なデジタルコンテンツの消費スタイルを変えるビューワーとして、注目を集めている。

 日本民間放送連盟の広瀬道貞会長(テレビ朝日顧問)は2010年5月27日に定例の記者会見でiPadの発売について「我々にとっては緊張すべき状況を迎えた。テレビがこれまでメディアの中において、広告を集める力で相当優位だった状況を失わないようにしていきたい」と述べた。実際には、テレビ局は積極的に打って出る動きを活発化させている。今回は放送/映像関連の取り組みについてまとめた。

ブランド構築狙う番組/事業者関連アプリ

 放送用のコンテンツをそのまま二次利用するのではなく、事業者や番組のブランドやキャラクター、世界観を生かしたアプリをiPad向けに提供したのが、テレビ東京の「情熱の系譜 for iPad」や、NHK(日本放送協会)の「NHK時計HD」である。

 ミニ番組の公式アプリである「情熱の系譜 for iPad」は、番組の素材を使って改めてiPad用の「動画付き電子書籍」風のコンテンツとして作り直している。番組とアプリが互いに補完しながら、取り上げたテーマを深く楽しめるように作られている。

 「NHK時計HD」は長年NHKの顔として、正時のお知らせの際に使われてきた時計をiPhone/iPadで再現するアプリである。NHK時計は、これまでにもブログパーツやパソコン用ウィジェット、各種携帯電話機用ウィジェット、Android OS用アプリとして提供されてきた。NHK時計には、視聴者サービスとして提供されているだけでなく、「アプリなどのコンテンツ提供を検討しているプラットフォームについて、アプリの制作から配信まで一通りの作業を経験し、必要な開発体制を確認するための素材という位置づけもある」(NHK編成局 デジタルサービス部 副部長の倉又俊夫氏)という。iPhone向けにはNHK時計提供後、NHKの国際放送を視聴できるアプリ「NHK World TV Live」を既に提供しており、iPad向けにも同アプリの提供を検討している。

動画配信の新しいウインドウとして活用

 実際にiPad向けの取り組みとして多いのは、「コンテンツ二次利用の新しいウインドウ」としてiPadを位置づけたサービスである。

 東京ケーブルネットワークは、コミュニティーチャンネルの自社制作コンテンツ活用を目的に、iPad/iPhone向け配信の実験を行う。システム的には放送番組の再送信のほか、視聴中の番組の巻き戻しや、番組の頭に戻って見直すスタートオーバーのような機能の提供も可能である。

 フロントメディアの携帯電話機向け動画配信サービス「QTVビデオ」は、iPhone向けに12作品の動画配信を2010年6月1日に開始した。iPadにも近日中に対応する予定である。一般的な携帯電話機向けに提供している従来のQTVビデオサービスでは、就寝前の時間帯に利用のピークがある。このことから、携帯電話機向けといっても外出先で見ているだけでなく、自室などでテレビ代わりに楽しむケースが多いと分析している。6月中順の取材時には、開発中のiPad用アプリによるデモを見ることができた。動画を再生するiPadは一見小型の液晶テレビのようで、プライベートな動画視聴というQTVビデオの利用シーンにマッチしていた。

iPad向けにラジオの配信、空いた画面を有効活用

 放送関連では、テレビだけでなくラジオもiPad向けのサービスを提供している。TBSホールディングスのデジタルラジオ「OTTAVA」は、iPhone用の聴取アプリに続き、iPadとiPhoneの両方に対応した聴取アプリ「OTTAVA News & Classics」の提供を6月中旬に開始した。画面にはOTTAVAで放送中の番組や曲の情報に加えて、TBS News iの最新ニュースを表示する。聴取した曲をiTunes storeで購入する機能もあり、アフィリエイトによる新しいビジネスモデルにも挑戦している。

 radiko.jpは都市部を中心としたラジオの難聴取解消を目的とした「IPサイマルラジオ」の実用化試験サービスである。試験期間は、2010年3月15日~8月31日を予定している。在京民放ラジオ7局と在阪民放ラジオ6局が参加し、地上波ラジオ放送をCMも含めて放送エリアに準じた地域に配信する。まずパソコン向けに開始したところ、iPhoneで聴取するための「勝手アプリ」が複数登場するほどの人気ぶりで、2010年4月にはiPhone向けの正式アプリをアナウンスした。5月下旬にはiPad対応や回線品質の悪い地下鉄などでも安定して利用できるよう機能強化したアップデートを発表した。