PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)のスキルや成果物は、さまざまなプロジェクトで有効に再利用できる貴重なリソースだ。そんなリソースを特定プロジェクトだけで専有していてはもったいない。PMOを“クラウド的”な共有リソースと考えてみてはどうだろうか。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ マネージャー PMP


 ある一つのプロジェクトの「専任PMO」として実際に業務遂行したことがある方は実感できると思いますが、プロジェクトのフェーズや状況によってPMOの仕事量には大きな波が生じます。寝る暇もないぐらい忙しい時期があるかと思えば、ルーチン的な業務を回していくだけの、余裕がある時期もあります。

 PMOの業務は、特にプロジェクトや各フェーズ(設計フェーズや開発フェーズなど)の立ち上がりと終結の時期に負荷が大きくなります。なぜならば、立ち上げ時にはそのフェーズでのプロジェクト運用ルールの整備、ひな形の作成、定着化などで作業量が増えます。また、終結の時期では、そのフェーズの成果物の取りまとめや次のフェーズの計画作りで作業負荷が増えます。

 一方、当該フェーズを立ち上げて軌道に乗り、プロジェクトメンバーが運用ルールとWBS(Work Breakdown Structure)に従って粛々と作業を進めていく期間は、PMOとしては課題管理や進捗管理といったルーチン的な作業が中心になります。加えて、「第62回 トラブル対応に必要な“余裕”をどう作る?」でも述べたように、PMOの作業をある程度自動化してしまえば、比較的余裕を作り出すことができます。

PMOをクラウド的に利用する

 こうした作業負荷の波は、できるだけ平準化する必要があります。また、PMOのスキルや成果物は、さまざまなプロジェクトで有効に再利用できる貴重なリソースです。そんなリソースを特定のプロジェクトだけで専有するのは、もったいないと言えましょう。

 そこで、各プロジェクトに散らばっているPMOメンバーを組織的に管理することによって、「PMOを“クラウド的”に利用する」という使い方が見えてきます。つまり、PMOメンバーのリソースプールを作り、必要なときに、必要なだけ、必要なPMOスキルを持った人材を各プロジェクトのPMOメンバーとして割り当てていくのです。そのためには、「第66回 組織力を駆使したプロジェクトマネジメント」でも述べたように、「PMOを組織として機能させる」必要があります。

 PMOをクラウド的な共有リソースとして定義すると、下記のようなメリットがあるのではないでしょうか。

(1)あるプロジェクトが忙しいときには、当該プロジェクトに対するPMOメンバーのアサインを増やせる。これにより、PMOがボトルネックとなってプロジェクト運営が停滞するリスクをなくす。

(2)PMOメンバーが各プロジェクトでの教訓や良い所を知識化してPMO組織に持ち帰ることができる。これにより、PMO組織としてのスキルや知識が向上し、各プロジェクトにも還元できる。

(3)あるプロジェクトにアサインされているPMOメンバーがスキル不足の場合でも、「一時的に必要なPMO知識」を共有リソースから調達できる。

 ただし、PMOを“クラウド化”すると、プロジェクト専任担当ではなくなるため、プロジェクトへの帰属意識が薄まる可能性があります。また、大手のシステムインテグレータなどでよく見られるように、PMOメンバーが複数の組織(事業部など)に分散している場合があります。このようなケースでは、PMOメンバーの統合・組織化を巡って「組織的にどう位置づけるか」といった問題も発生し得ると思います。

 上記の懸念に対しては、各プロジェクトには数人のプロジェクト専任のPMOメンバーを固定的に割り当て、必要に応じてPMOメンバーを追加するような方法でもいいでしょう。また、組織の問題として全社的な実施が難しければ、まずは1つの事業部や部の単位で実施してみるのがよいかもしれません。

既存組織との違い

 プロジェクトマネジメントを“クラウド的”に支援する組織として、既に「品質管理部」といった名前の組織が中堅・大手企業ならばあるかもしれません。しかし、一概には言えませんが、そのような組織の多くはプロジェクトの「アドバイザー」や「監査者」のような存在と位置づけられているのではないでしょうか。もしそうなら、プロジェクトの現場でプロジェクトメンバーと一緒に汗を流し、プロジェクト成功のために尽力するPMO組織とは様相が異なります。

 プロジェクトの品質を担保するためには、アドバイザーや監査者としての客観的な視点でプロジェクトの状況を判断する機能も必要だと思います。しかし、実際に現場に入って働くプロジェクトマネジメントのプロフェッショナルを組織として育成していけば、プロジェクトの成功確率はもっと上がると思います。


後藤 年成(ごとう としなり)
マネジメントソリューションズ マネージャー PMP
 大学卒業後、ニッセイコンピュータ(現ニッセイ情報テクノロジー)に入社。システム・エンジニアとしてホスト系からオープン系にいたる幅広いシステム開発を経験した後、2002年から野村総合研究所にてプロジェクトマネジメントに携わる。2007年、マネジメントソリューションズに入社。「知恵作りのマネジメント」を支援するPMOソリューションの開発や各種プロジェクトでPMO業務に従事している。連絡先は info@mgmtsol.co.jp