エコロジストによって、不吉な未来を象徴するとされるのが地球規模での両生類の激減である。この両生類を称して環境問題における「坑道のカナリア」と呼ぶのだが、対称的に元気がいいのが無脊椎動物、軟体動物の類である。特にイカ、タコの仲間は、巨大化しており、まさに大怪獣時代の到来の予兆である。「坑道のカナリア」ではなく、「ゴジラ時代」の前触れかと、不謹慎にも期待してしまったりもしているのだが。

 私が幼稚園から小学校低学年の時代は、怪獣ブームであった。テレビや雑誌はもちろん、映画の世界でも怪獣が大活躍していたのを、当時の子供たちは胸をわくわくさせて見ていた。教育熱心な母親が「教育ママゴン」と呼ばれていたころである。

 恐竜が好きだった私は、すぐにはまった。親から買ってもらった怪獣の本の中身を、片っ端から暗記した。友達からもらったあだ名は怪獣博士である。これは後にもらった経済学の博士号よりも、自分にとってふさわしい、そして誇らしいものであったように思える。しかし、当時“勉強”した知識が、後々になって専門とした学問と結び付くとは夢にも思わなかったのだが。

 怪獣ブームの時代を過ぎて、変身ヒーローブームが来ても、銀幕界のスターであったのは、最初に純国産で登場した怪獣「ゴジラ」であった。生みの親である円谷英二氏が、いみじくも最も愛着があると述べたゴジラの人気は絶大なものであった。当時の怪獣図鑑で、ゴジラのページを見てみると、身長50メートル、体重2万トン、口から放射能火炎を吐くと書かれている。身長40メートルのウルトラマンよりも、さらに10メートルも高いのである。最初に映画として登場したのは1954年であるから、もちろん生まれてもいなかった。最初に映画館で見たのは大映の「ガメラ対バルゴン」、次が東宝の「サンダ対ガイラ」であったというと、だいたいの年代も分かってしまうだろう。「ゴジラ」は、テレビのリバイバル映画で見ている。

 白黒映像が不気味さを醸し出す中、大戸島という島に、巨大生物が上陸する。劇中で山根博士が、あれはジュラ紀から白亜紀にかけての生物であると述べたのが印象的であった。私が少年時代は、恐竜のティラノサウルスでもアロサウルスでも、かなり姿勢がよく描かれており、現在の前屈みのトカゲ的な恐竜よりも格好よく見えたが、ゴシラもまた姿勢が良く、王者のように堂々として、歩き方も威厳があった。ゴジラのライバルとなる怪獣たちも、この恐竜時代に起源を持つものが多い。例えばアンキロサウルスからアンギラス、プテラノドンからラドンがイメージされている。

 ゴジラたちが生育していたとされる中生代のジュラ紀とは、今から約1億9500万年前~約1億3500万年前の時代、白亜紀が1億4550万年前から6550万年前である。いわゆる恐竜が大活躍していたころで、映画となった「ジュラシック・パーク」では、その時代の恐竜が多数登場している。一般に、気温が上昇していると生物は巨大になるとされる。細胞の生育がよくなるからだ。恐竜が巨大であったことからも分かるように、ジュラ紀、白亜紀は今よりも温暖であった。

 このジュラ紀、白亜紀といった中生代の前を、地質学的には古生代と呼ぶ。この古生代も地球は温暖で、海中では60センチもある巨大なウミサソリが猛威をふるって三葉虫などを補食していた。空には70センチの巨大トンボのメガネウラが飛び交い、陸上には巨大ゴキブリと、それを捕食していたらしい2メートルの巨大ムカデのアースロプレウラなどが生息していた。節足動物の類は、最終的には小型化していく。脱皮を行う非効率性と、植物との共生が、巨大化よりも小型化の方向に進ませたのである。

 この古生代の中に石炭紀が含まれる。石炭紀は、3億6700万年前~2億8900万年前までで、この後に氷河期が到来した。暖かいときに巨大化するのは動物だけではない。植物も巨大化する。特にシダ類が繁栄し、中にはリンボクのように、直径2メートル、高さ38メートルのシダもあったというが、氷河期で枯れ果てて堆積し、石炭になっていったのである。石炭紀を過ぎても、温暖期には巨木が現れ、それが石炭へと変化していった。ヨーロッパや北米の石炭は、石炭紀の樹木だけでなく、ジュラ紀、白亜紀の樹木もある。

 現在も地球が暖かくなっているので、樹木も巨大化するかもしれないが、いち早く巨大化し始めたのがイカである。特に、ダイオウイカの巨大化は、地球が暑くなっている現在を象徴する話の一つである。イカのようにな無脊椎動物は、脊椎動物よりも骨の制約がない分、大きくなりやすいのだが、ダイオウイカはもともと大きかった。