政府のIT戦略が具体化に向け動き始めた。IT戦略本部(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)は2010年6月22日、IT戦略の工程表を公表した。6月29日には内閣官房国家戦略室が、「国民ID制度に必要なシステム開発コストは最大6100億円」との試算結果を発表した。具体的なスケジュ ールやコストが見えてきたことで、7月11日の参議院選挙明けにも、各省庁は予算措置や法改正に向けた作業に入る。

 工程表は、5月に発表したIT戦略を具体的な作業内容に落とし込み、図表上にスケジュールとともに示したものだ。「国民ID関連法案を2012年度末に提出する」「内閣官房と総務省が2011年度に政府CIO体制を整備」「総務省が2011年度に政府・自治体のクラウド調達基準を策定する」といったことが、ひと目で分かるようになった。

 このIT戦略のなかでも核になりそうなのが、民主党がこれまでマニフェストでも明記してきた「国民ID制度」の導入である。国民IDは、国民一人ひとりに番号を付与し、より公正な社会保障と税徴収を実現することを目指す制度。今回、内閣官房の「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」が試算した 6100億円は、この制度を実現するための開発費のみだ。運用費や周辺ビジネスを合わせると、IT業界にとっては大きなビジネスが期待できる。

 ただし現時点では、国民ID制度そのものの中身がまだ固まっていない。国民IDをどこまで活用するかで、「国民ID市場」の規模も変わる。開発費が大きくなるのは、医療や介護、証明書の発行業務などにも役立てる「C案」の場合だ()。A案、つまり国民IDを税務にのみ利用する場合は5300億円程度になる。

図●国民IDの利用範囲によって変わる政府のシステム開発規模<br>政府が「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」でシステム開発費と期間を算出した
図●国民IDの利用範囲によって変わる政府のシステム開発規模
政府が「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」でシステム開発費と期間を算出した
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 何を国民IDにするかによっても、システム開発の規模は変わりそうだ。検討会は、(1)基礎年金番号の流用、(2)住民票コードの流用、(3)新たな番号の付与――の3案を提示する。

 工程表によれば、国民ID制度のシステム開発は2013年度に始まる。急ぎ議論を本格化させる必要がありそうだ。