iPadを分解し、その無線関連実装を分析する今回の企画。分析を依頼した大手携帯端末メーカーの技術者との会話形式で話を進めていく。第2回は、3Gアンテナについて取り上げる。iPadがサポートするのは、GSMあるいは3G/HSDPA向けの850MHz帯、900MHz帯、1800MHz帯、1900MHz帯、2100MHz帯。これらの電波を受信するようにアンテナが設計されている。iPadではそのきょう体の大きさを生かし、2個の3Gアンテナを使って受信性能を上げるダイバーシティ方式を採用している。これは従来のiPhoneにはなかった特徴だ。このほか、単一機種で世界中に展開するため、マルチバンドアンテナを採用している。
受信専用のアンテナを追加してダイバーシティ方式を実現
3Gアンテナについてですが、何か特徴はありますか。例えばiPhoneと比べた場合、どのような違いがあるのでしょうか。
iPadでは、二つのアンテナを利用するダイバーシティ方式を採っています。iPhoneはダイバーシティ方式は使っていないので、これはiPadならではの工夫と言えるでしょう。
3Gアンテナは2個あります。液晶モジュール側に付いている3Gアンテナ1は、送信と受信の両方を受け持ちます。基板があるきょう体の方に取り付けられている3Gアンテナ2は、受信専用と推測できます(写真1)。このように、受信専用のアンテナを追加して、受信側をダイバーシティにする手法はiPadに限らず、最近の様々な機種で良く見られます。
片方のアンテナは受信専用とのことですが、それはどこから分かるのでしょうか。
こちらの3Gアンテナ2は、3G基板の背面にあるLNAらしきチップにつながっているため、受信専用の可能性があります(写真2)。LNAはLow Noise Amplifierのことで、受信信号を増幅する機能を持った部品です。アンテナに近ければ近いほど特性は良くなるので、専用に背面へ持っていったのではないかと推察できます。
なぜ最近、受信の方をダイバーシティにする実装が増えているのでしょうか。
携帯に限らずPCでも同じだと思いますが、そもそも送信するよりも受信する方のデータ量が多いため、海外のチップメーカーのプラットフォーム自体、そのような回路構成になっていることが多いのです。HSDPAなど、下りの伝送速度が速くなってきて、ダウンロードするデータ量も増えてきたということも背景にあると思われます。
iPadは特に利用するコンテンツの受信が非常に多いため、スループットを上げてユーザーの待ち時間を減らすといった意図があるのでしょう。