写真1●上海浦東国際空港と上海市内をわずか7分で結ぶリニアモーターカー「上海磁浮(マグレブ)」
写真1●上海浦東国際空港と上海市内をわずか7分で結ぶリニアモーターカー「上海磁浮(マグレブ)」
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 上海の空の玄関の一つである上海浦東国際空港。上海国際博覧会(上海万博)を訪れるべく空港から上海市内へ移動するためには、リニアモーターカー「上海磁浮(マグレブ)」が便利だ(写真1)。上海磁浮の最高速度は時速431キロメートルに達する。商用のリニアモーターカーとしては世界最高速だという。空港から地下鉄竜陽路駅の間の約30キロメートルをわずか7分ちょっとで結ぶ。

 実は、上海万博を訪れる通信業界関係者を対象に、上海磁浮の走行車両を使い、ある通信実験が行われている。時速431キロメートルという移動体としては究極とも言える環境下で、第3.9世代の携帯電話規格「LTE」の通信試験が行われているのだ。

写真2●華為技術がリニアモーターカー内で実施したLTEのデモ
写真2●華為技術がリニアモーターカー内で実施したLTEのデモ
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 実験を進めているのは中国の通信機器ベンダーである華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)。日本でもイー・モバイル向けに「Pocket WiFi」などの端末を納入していることで知られる。

写真3●最高速度である時速431キロメートルに達した瞬間
写真3●最高速度である時速431キロメートルに達した瞬間
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写真4●最高速度に達した直後も通信は途切れることはなかった
写真4●最高速度に達した直後も通信は途切れることはなかった
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 実験では上海磁浮内にLTEのデータ通信端末を持ち込み、軌道に沿って設置された8局のLTE基地局の間を途切れなく通信して見せた(写真2)。端末の移動速度が速くなればなるほどハンドオーバーは困難になるが、リニアモーターカーが時速431キロメートルに達するまで35Mビット/秒前後のデータ伝送速度を保ったまま通信し続けている様子を確認できた(写真3写真4)。ハンドオーバーは平均99.5%の確率で成功しているという。同社の技術力の高さをアピールした格好だ。

設立20年で世界のトップベンダーを脅かす存在に

 華為技術は1988年、中国深セン市にて設立された中国の民間企業だ。同じ通信機器ベンダーでもスウェーデンのエリクソンやフィンランドのノキアが100年以上の歴史を誇るのと比べると、比較的若い会社だといえる。

 歴史の浅さにもかかわらず華為技術は、エリクソンやノキア シーメンス ネットワークスといった世界の通信機器市場でトップレベルのシェアを誇る企業を脅かすまでに急成長してきた。ノキア シーメンスはノキアと独シーメンスの合弁会社である。華為技術は、2009年にモバイル・インフラの分野でこのノキア シーメンスを抜き、エリクソンに次ぐ世界シェア第2位に躍り出た(米の調査会社デルオロ・グループ調べ)。華為技術はIPネットワーク機器の分野でも、米シスコ、米ジュニパーネットワークスに次ぐ世界シェア第3位に付けている。

 そんな華為技術を、エリクソンの中国・北東アジア地区のトップであるマッツ・オルソン上級副社長は次のように評す。「彼らは中国市場はもちろん、世界市場でも最大のライバル。我々の顧客である通信事業者のリクエストに応じてカスタマイズしたソリューションを、迅速に出してくるところに脅威を感じる」

 ライバルも一目置く華為技術の迅速な対応力は、「2~3時間しか寝ないエンジニアもいる」(華為技術の広報担当者)というほどの社員たちの猛烈な働きぶりが大きな原動力となっている。さらに同社の強みとして、製品のコスト・パフォーマンスの高さもよく指摘される。そこには欧米企業と比べて人件費を抑えやすい中国企業ならではの事情もあるだろう。華為技術に取材をすると、各国の通信事業者向け製品プロジェクトを統括する部長クラスの肩書を持った、若くて溌剌(はつらつ)とした様子の担当者に出会うことが多い。華為技術は若手の活躍が目立つエネルギーに満ちた企業なのだ。