IT研修サービス大手の富士通ラーニングメディアが2009年7月、研修受講者が利用する「新受講管理サービス」を、セールスフォース・ドットコムのPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)「Force.com」上に構築して運用を開始した。全国6カ所の拠点で同時に1000人が利用するシステムを、2人の社員がわずか2カ月で作り上げた。<日経コンピュータ2009年8月5日号掲載>

 「コーディングを一切外注しない開発がこんなに楽だということを、久しく忘れていた。テスト運用中に生じた利用者の不満も、その日の内に解決できた。外注したコードを自分で修正できないことに今までどれだけストレスを感じていたか、改めて気付かされた」。富士通ラーニングメディア システム推進部で「新受講管理サービス」の開発を担当した若松英寿氏(写真)は、Force.comを使った「クラウド開発」の感想をこう述べる。

写真●左から富士通ラーニングメディア執行役員ナレッジ・コー・クリエイティング推進本部本部長兼システム推進部長の青山昌裕氏、システム推進部千葉直也氏、同若松英寿氏
写真●左から富士通ラーニングメディア執行役員ナレッジ・コー・クリエイティング推進本部本部長兼システム推進部長の青山昌裕氏、システム推進部千葉直也氏、同若松英寿氏

 富士通ラーニングメディアが2009年7月から運用を開始した新受講管理サービスは、年間8万人にも及ぶ研修受講者が出欠を登録したり、講義に関する理解度テストを受けたり、受講後のアンケートに答えたりするWebシステム。従来はアンケートやテストには紙を使っていた。しかし個人情報保護法の施行後は、受講者の名前が書かれたアンケート/テスト用紙の回収に煩雑な手間が必要となった。セキュリティの強化と受講者サービスの向上が、新システム導入の目的だった。

 システム構築に当たって、同社は従来の標準的な開発スタイルである「開発言語はJava、バックエンドはRDB MS」という構成ではなく、Force.comを採用した。Force.comは、CRM(顧客関係管理)ソフトの「Salesforce.com CRM」が使うシステム基盤を使用して、CRM以外のアプリケーションを開発/運用できるプラットフォームである。

 富士通ラーニングメディアがForce.comを採用した理由は、大きく三つ挙げられる。(1)初期投資が少ないこと、(2)運用の手間がかからないこと、(3)アプリケーション開発が容易であることーーだ。

初期投資は2カ月分の人件費のみ

 初期投資が少ないのは、ハードウエアやソフトウエアを購入する必要がないため。新受講管理サービスは、全国6カ所にある講習会場にやってくる1日1000人以上の受講者が、朝9時から一斉に使い出すシステムである。各拠点に分散配置したサーバーは、耐障害性を考えると冗長化する必要があった。ハードウエアやミドルウエアを購入し、その上でアプリケーションも外注開発に出すとなると、1億円を超える初期投資が必要になると見積もっていた(図1)。

図1●従来型開発スタイルでは1億円以上の初期投資が必要になるところ、「Force.com」では数百万円の初期投資で済んだ
図1●従来型開発スタイルでは1億円以上の初期投資が必要になるところ、「Force.com」では数百万円の初期投資で済んだ
[画像のクリックで拡大表示]

 一方、プラットフォームを月額課金制のサービスとして利用するForce.comの場合、ハードウエアやミドルウエアの初期投資は不要だ。アプリケーション開発は必要だが、後述するように社員2人が2カ月で開発できたため、数百万円で収まった。

 Force.comの場合、インフラはすべてセールスフォースが運用し、サーバ ーの冗長化やバックアップも任せられる。使用料は開発者1人当たり月額1万5000円、受講者を管理する講師の場合は1人当たり同6000円かかるが、人数の多い受講者に必要な料金は1人当たり同3000円である。年間利用料は4000万~5000万円だ。

 初期投資や運用コストの総額を比較した場合、「Force.comのほうが2割少ない」(富士通ラーニングメディア執行役員でシステム推進部長を務める青山昌裕氏)見込みだった。