前回(第31回)は、情報化が進んだ結果、発信されやすい情報はますます増加し、「発信されにくい情報」は埋没する懸念があることを指摘しました。

 先週6月24日に参院選が告示され、選挙戦に突入しました。選挙が始まると、政治家による情報発信、マスコミによる情報発信は、より偏ったものになりがちです。私は、選挙に左右されない中央省庁の官僚こそが、もっと「発信されにくい情報」に着目し、それを発信したり、発信を促したりするような施策を実行するべきだと考えます。

 “一党独裁”があたかも永続するような前提で出来上がった日本の政治構造の中では、「政治家に都合の悪い事実は脚光を浴びないようにし、中央官庁はそれを手伝うことで天下りポストを得る」ような流れがあったことでしょう。しかしながら、鳩山由紀夫内閣が始めた“事業仕分け”(関連記事)などの施策によって、天下りポストは減少し、もはや官僚は政権政党の言いなりになる必要がなくなりました。

人材派遣規制の影響を発信することこそ官僚の役割

 中央官庁のキャリア官僚は、受験戦争の勝者であり、日本人最高峰の頭脳を誇っています。こうした人たちに望みたいことは、“レベルの低い国民”を慮って情報を取捨選択したり編集することをやめて、その時々の政権政党の利害に反してでも、様々な情報を発信していくことです。

 例えば、人材派遣業に対する規制強化が進む過程で、企業の雇用がどう変化していくかの事実を淡々と調査・発信してほしいのです。派遣契約を規制することで、請負契約に移行しつつ実質的には何も変わらない“偽装請負”はどの程度あるのか。直接雇用に分類される期間契約社員の実質賃金・実質雇用期間は、派遣社員当時のそれと比較して改善されているのか。日本の法律で十分に保護されない外国人雇用がどこでどのように広がっているのか。新卒の就職状況、子育てから復帰後の再就職状況などはどうなっているのか。こうした事実は定点観測したうえで、情報発信する価値がありそうです。

 定量的な情報、すなわち数字はそれ自身が説得力を持ちます。一方で、定性的な情報は主観が入る余地があり、中央省庁の立場では発信をためらうかもしれません。しかしながら、定性情報も圧倒的な数を集めれば定量分析が可能になるはずです。ですから、起きている事実を客観的に情報発信するだけでなく、国民の意見が偏らずに出てくる工夫をしたうえで意見情報を収集・発信することにも意義があると考えます。