NTTグループと角川グループが出資するNTTプライム・スクウェアは、クラウド技術を活用することで携帯電話機やタブレット端末、パソコンなど複数の端末にコンテンツを配信するサービス「Fan+」向けのコンテンツプロバイダーの募集を開始した。配信するのは、動画や写真、テキスト、音声を組み合わせたハイブリッド型のコンテンツで、購入コンテンツはクラウド上に作られる各会員専用の仮想本棚「MyBox」に収納される。購入したコンテンツは、異なる端末からも利用できる。

2年半前の意見交換から生まれたサービス

 Fan+は、角川グループがデジタルコンテンツビジネスをどう推進していくべきかのヒントを得るために、約2年半前に開催したNTTグループとの意見交換に端を発して誕生した。「コンテンツのデジタル化は、必ずしもコンテンツ事業者にとって追い風ではなく、今後さらに競争が厳しくなるという危機感があった。そこでネットビジネスに詳しいNTT関係者と意見交換を持った」(角川グループ出身で現NTTプライム・スクウェアの鈴木修美取締役)と背景を説明した。意見交換の結果、それまで角川で検討を行いながらも戦略化できなかった事業プランから、具体化できそうなものがいくつも出てきた。そのうちの一つが、「自分の好きなことに時間とお金をかけて没頭するという、日本人が持つ文化的背景を生かせるサービス」(鈴木取締役)であり、これがFan+の始まりだったという。

クラウド使い、複数端末でコンテンツ利用

 Fan+は、NTTプライム・スクウェアがコンテンツプロバイダーに対して提供するプラットフォームサービスであり、利用者へのコンテンツの販売は各コンテンツプロバイダーがFan+上に開設するショップで行う。Fan+は「ファンのためのサービス」と銘打っており、ショップが販売するコンテンツは、スポーツや歴史、アニメ、乗り物など特定のファン層を対象としたものになる。「100万人に売れるコンテンツを扱うのではなく、1万人を対象としたコンテンツを100個売るビジネスを目指す」(NTTプライム・スクウェアの井上淳也取締役)という。

 動画や写真、テキスト、音声を組み合わせたコンテンツは、NTTプライム・スクウェアが提供するツールを使って制作する。それぞれの素材データを、異なる端末の画面毎にどうレイアウトするかを指定しながら作業する。配信時には、サーバー側で視聴端末の種類を自動認識して、端末に合ったデータを配信する。

 動画、写真、テキスト、音声といった素材をどう組み合わせるかは、コンテンツの制作側が自在に選べる。電子書籍のようなテキスト主体のものから、動画や音楽をふんだんに使ったマルチメディア作品のようなものまで、様々なコンテンツを制作できるという。

 NTTプライムス・クウェアにとっては、コンテンツプロバイダーの売り上げに比例した手数料収入と、サービス画面に表示する広告による収入が主な収入源となる。「Fan+への出店に当たり基本料金を設けるかどうかは現在検討中。参入ハードルを下げたいと考えており、基本料金を設定する場合もできるだけ低くしたい」(井上取締役)という。また、売り上げに比例する手数料についても、販売ボリュームが増えるほど手数料比率を下げることで、コンテンツプロバイダーが収益を上げやすい仕組みの導入も予定している。

 さらにFan+では、ショップのコンテンツを中心に集まるファンの集まりを活性化するために、イベントとの連動サービスや、グッズの販売、コミュニティー機能、ライブ中継といた機能と連動できるように準備を進めている。「ファンに対するビジネスを総合的にサポートするプラットフォームを目指す」(井上取締役)のが狙いである。

 9月のサービス開始時点では、端末として3キャリアの携帯電話機のほか、パソコン、さらにスマートフォンとしてiPhoneとXperiaに対応する。ショップの数は20~30程度を揃える予定である。コンテンツごとの単品販売のほか、定期購読やレンタルなど、様々な販売方法に対応する。また、OpenIDを使ってNTTグループの複数サービスを同一IDで利用できる「NTT ID ログインサービス」や、決済情報を個別サイトに登録しなくても様々なサービスで買い物ができる「NTT ネット決済」も、マルチデバイス環境への対応状況を見ながら将来的に採用する方針である。