ITproは、Amazon EC2をサービス基盤の一部に利用している。2008年の導入に際しては、ベンチマークテストで実効性能を計測してITpro上で紹介した(関連記事)。2010年3月には再検証を実施し、その結果を書籍「クラウド大全 第2版」に掲載した。今回では、2010年4月に新設されたシンガポールEC2の検証結果を加えた完全版をお届けする。今回は、まず仮想CPUについて取り上げた。
米Amazon Web Services(AWS)のパブリッククラウドサービス「Amazon EC2」は、必要な性能に応じて8種類の仮想マシンを選択できる(表1)。仮想マシンが持つ性能は、演算性能の目安となる独自指標「ECU」や仮想メモリー容量、仮想ストレージ容量などの仕様を明示している。実際の性能はどれほどのものか。ベンチマークで検証した。
名称 | 仮想CPU | 仮想メモリー | 料金(米国東海岸、Linux/UNIX時) |
---|---|---|---|
Small | 1ECU×1(32ビット) | 1.7GB | 0.085ドル/時 |
Large | 2ECU×2(64ビット) | 7.5GB | 0.34ドル/時 |
Extra Large | 2ECPU×4(64ビット) | 15GB | 0.68ドル/時 |
High-CPU Medium | 2.5ECU×2(32ビット) | 1.7GB | 0.17ドル/時 |
High-CPU Extra Large | 2.5ECU×8(64ビット) | 7GB | 0.68ドル/時 |
High-Memory Extra Large | 3.25ECU×2(64ビット) | 17.1GB | 0.50ドル/時 |
High-Memory Double Extra Large | 3.25ECU×4(64ビット) | 34.2GB | 1.20ドル/時 |
High-Memory Quadruple Extra Large | 3.25ECU×8(64ビット) | 68.4GB | 2.40ドル/時 |
EC2で仮想CPUのベンチマークを試みるうえで、押さえておくべきポイントは二つ。AWSが示す「ECU」の意味と、物理CPUの違いである。ECUは、「Intel XeonまたはAMD Opteronの1.0G~1.2GHz相当」の処理能力を示す性能指標である。つまり、利用する仮想マシンのECUを見れば性能はある程度わかる。つまり、ECUの数値差と実効性能の差がどの程度あるのかを確認するのが今回テストの主目的となる。またEC2はデータセンターによって、XeonやOpteronといったさまざまな種類のCPUが起動する。ただ仮想マシン仕様によって、割り当てられる物理CPUはある程度決まってくる。この挙動の影響範囲も合わせて考察した。
今回の測定では、米国東海岸のus-east-1dセンターを指定し、ベンチマークテストを実施した。1dセンターは、現行で最上位の仮想マシン仕様「High-Memory Quadruple Extra Large」に対応した米国における最新センターである。測定ソフトは、円周率計算の「Superπ」と流体解析計算の「姫野ベンチマーク」を使用した。いずれもシングルスレッドのテストなので、仮想CPUコア数は測定値に影響しない。ただしSuperπが演算性能でほぼ結果が決まるのに対し、姫野ベンチマークは演算性能とメモリー入出力性能の双方がスコアを左右する。
ECUの数値差よりわずかに低い相対性能
まずSuperπの結果を見てみよう(図1)。結果の値は順当なもので、EC2における仮想CPUの性能指標であるECUにほぼ比例した数字となった。
例えば1ECUのSmallを1とすると、2ECUのLargeとExtra Largeは約2、2.5ECUのHigh-CPU Medium/Extra Largeが約2.4、3.25ECUのHigh-Memory Extra Large/Double Extra Large/Quadruple Extra Largeは約3と、ECUよりもやや低い相対性能になった。1.86GHz動作の実マシンを1とした相対性能では、3.25ECUのHi-Memoryは約1.7で、実マシン換算で3GHz動作相当の演算性能があるといえる。
気になるのは、上位仕様の仮想マシンほど、ECUの数値とSuperπの測定結果の差が広がっていること。AWSはECUの算定に、演算性能以外の要素に結果を左右されるベンチマークソフトを使用しているようだ。