ライフログの利活用に関しては今後、個人情報保護法がどう影響しているか、そしてプライバシー問題をどう考えていくべきかという2点について、検討していく必要がある。プライバシーに関する問題意識を可能な限り除去しなければ、ライフログ活用は進まない。



写真1●弁護士 牧野二郎氏
写真1●弁護士 牧野二郎氏
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 IT分野では、日本は様々な場面で米国に後れを取ってきた。例としては

  • iPod > ウォークマン(WALKMAN)
  • Google > goo
  • YouTube > 動画サイト
  • Kindle、iPad > ???
などが挙げられる。

 ただ、これらは日本が技術力で劣っていたということとは違う。昨今目立ってきた電子書籍は、既に5~10年くらい前には日本で、ほぼ完成の域に達した技術が作られていた。ところがそれが結局は淘汰され、今になってiPad、Kindleの席巻を許している。

 検索エンジンも1994年には日本で実用レベルの技術が開発されている。グーグルはもちろん、ヤフーとも競争できるレベルにあった。ところが当時の日本では、著作権法が邪魔になって利用が進まなかった。その後、結局はグーグルの台頭を許すことになった。2010年1月にようやく著作権法が改正されたが、時既に遅しである。

 今注目を集めつつあるライフログに関しても、同じ状況に陥る可能性は決して低くない。携帯電話やセンサーの技術に関して、日本は世界最高峰の技術を持つ。地図の正確さも世界のトップレベルだといわれている。つまり、ライフログ活用のための技術は十分に整っていて、あとはサービス提供という段階にある。

 重要なのは、とにかく利活用を促すことである。ただそこには、個人情報保護やプライバシー保護の概念が普及を阻害する要因として存在している。ここを切り崩していく必要がある。実際のところ、ユーザーの購買履歴や好みに基づいて、個々に適した商品を進める(レコメンドする)サービスは、既にアマゾン・ドットコムなどで提供されている。同じことを日本の書籍販売サイトがやったら違法という状況を放置しておくと、日本は後れを取るばかりである。

 プライバシーの考え方については、諸外国でも状況はほぼ同じである。一歩進んだ感があるのが米国。FTC(米連邦取引委員会)が「オンライン行動追跡広告の自主規制原則」として、ルールを公開した。特殊なルールではなく、きちんとユーザー本人に事情が分かるように説明しなさい、嫌だと言ったら消せるようにしておきなさいといったものである。日本でもこうしたことを徹底的に考えて、早急に議論していかなければならない。

技術先行で始まったライフログ

 そもそも、ライフログが注目されるようになった背景は何か。技術者に尋ねてみたことがある。答えは明快で、「ライフログとして記録される膨大な情報を、実用に耐える時間内で解析できるようになったこと」だった。つまり最大の要因は、コンピュータ技術が進歩し、マシンパワーが飛躍的に高まったことであり、技術的な課題、あるいは限界を突破したことだという。

 これは言い換えると、どのような用途で、どのような扱い方で使うといった方針がないままライフログが記録・蓄積されているということになる。これが、誰かがそれを結合して悪用するのではないかという不信感、あるいは気味悪さをユーザーに感じさせる原因になっている。

 プライバシーに関しては、監視カメラ撤廃運動や、国民総背番号制の議論など、いろいろな方面で議論がある。どの場合も背景には、気味悪さがあるだろう。ただ、その一方で我々は税務申告をし、納税者番号を使っている。それによりコントロールされていることについて、何か意見を言うケースは少ない。

 この違いは、「情報の使い方が分からないこと」にある。現状では、情報を取られる側にきちんとした説明がなされておらず、何がどう使われるかきちんと告知されていない。そして、提供する側と受ける側との対称性が確保されていない。このため、ユーザーの意識を変えるには、「透明性」を確保することが重要になる。

 この透明性を確保する方法は大別して2通りある。あらかじめ取得する情報の内容や用途について了承を得る「オプトイン」と、取得してから内容や用途を通知する「オプトアウト」である。ライフログの範囲と利用方法の多様性を考えると、これらはどちらか一つがよいというものではなく、使い分ける必要があるのではないか。