この記事では、プライベートクラウドのサービスマネジメントの作り方について解説します。本題に入る前に、そもそもプライベートクラウドのサービスマネジメントは、従来型のサービスマネジメントと何が異なるか考えてみましょう。

 例えばサーバーの仮想化基盤を社内に提供するのと、IaaSを提供するのでは、何が異なるでしょうか。この一連の連載ではNISTによるクラウドの定義を用いていますので、その定義からサービスマネジメントに特に関係する項目を拾ってみました(表1)。これを、サービスマネジメントの要件に書き換えてみます(ここでは、Broad network accessとResource Poolingのふたつの特徴を割愛しています)。

表1●NISTによるCloud Essential Characteristicsとサービスマネジメントシステムの要件
クラウドの特徴 説明 サービスマネジメントシステムの要件
On-demand self-service ユーザー側から自動的に、必要な機能のプロビジョニングが可能である セルフサービスポータルが存在する。サービスカタログから必要な機能を選択して、機能が(人を介さず)プロビジョニングされる
Rapid elasticity 提供される機能が、迅速に、弾力的にプロビジョニングできる 迅速に機能がプロビジョニングされる。リソース使用量が把握され、状況に応じて必要であれば柔軟にキャパシティーが増減できる。(ポリシーベースの自動スケールイン・アウト、使用量の自動最適化)
Measured Service メータリング機能を使って、計算機資源の利用状態をコントロールしたり最適化したりできる リソース使用量をメータリングできること。レポーティング機能があり、プロバイダーコンシューマーの双方で参照可能

 おおざっぱにまとめますと、次のようなシステムが追加されていると、より「クラウドらしく」見えるといえます。

●セルフサービスポータル
●プロビジョニングシステム
●リソースのメータリングとレポーティング

 言い換えますと、これまで運用構築担当者や運用担当者が人的に個別対応してきた仕事を高度に標準化し、システム化し、スピードアップとコスト節減を実現しているということです。クラウドがITサービスの「工業化」といわれるゆえんです。

 ここからは上記三つのうち、「セルフサービスポータル」を中心に解説します。次回は残りのテーマについて説明します。

セルフサービスポータル

 最初の特徴であるセルフサービスポータルの作り方です。セルフサービスポータルとは、「セルフサービス」という言葉に表されているように、従来はサービスデスクなどの人が支援してきたIT支援の仕事を、ポータル画面により機械化したもの、ととらえられます。長らくサービスデスクの効率化で使用されてきた用語です。ユーザーがIT部門担当者などの「人」でなく、自ら(=セルフ)ポータル画面に向かい、操作することで、仕事が進んでいきます。

 クラウドコンピューティングにおけるセルフサービスポータルでは、一般に次のような機能が提供されていることが期待されます。

●クラウドサービスカタログ(サービスメニューと内容の閲覧)
●サービスの見積もり、発注、承認
●発注済みサービスに関する各種状況照会・レポーティング機能
●変更申請、オペレーション依頼などの各種申請ワークフローとそのプロビジョニング

 これらの機能を通じて、より安価でスピーディーに仕事がはかどり、かつ照会機能が充実することで、「サービスの見える化」が進み、人を介さないことの不安感が取り除かれるのです(図1)。

図1●セルフサービスポータル画面の例
図1●セルフサービスポータル画面の例