クライアント仮想化の最新技術を紹介する本特集の第3回は、マイクロソフトの技術に焦点を当てる。マイクロソフトはサーバー/クライアントOSとオフィスアプリケーションのベンダーであることから、それらと連携した多様な仮想化技術を持つ。アプリケーションの仮想化、デスクトップの仮想化を中心に、マイクロソフトが目指すクライアント仮想化の姿を見ていこう(編集部)

佐藤 芳樹 マイクロソフト

 多くの読者に認識されていると思うが、マイクロソフトはクライアントOSに強い。Windows 2000、Windows XP、Windows Vista、そしてWindows 7と、一連のクライアントOSを開発し、世界で90%以上のシェアを獲得している。Windows 7は、仮想ハードディスク(VHD)を利用したOS展開やVHDファイルからOSを直接起動させるVHDネイティブブートにも対応することで、仮想化テクノロジが標準搭載される初めてのOSでもある(図1)。

図1●Windows 7のデスクトップ画面
図1●Windows 7のデスクトップ画面

 マイクロソフトは、サーバー仮想化の主力製品となる「Hyper-V」だけでなく、クライアントの仮想化にも力を入れている。「Microsoft Application Virtualization (App-V)」によるアプリケーションの仮想化、「Microsoft Enterprise Desktop Virtualization (MED-V)」 によるデスクトップの仮想化などである。

 ここでは、これらの製品のアップデート情報に加え、新しくデスクトップ仮想化製品としてラインアップに加わった「Windows Virtual PC」(いわゆる「Windows XPモード」)と、利用が本格化し始めた「Virtual Desktop Infrastructure(VDI)」について解説していく。

クライアントを仮想化する意味

 各製品やテクノロジの詳細に入る前に、なぜクライアントを仮想化する必要があるのかをまとめておこう。

 多くのユーザー企業において、最も保有台数が多いのがクライアントPCである。そして現在、多くの企業がWindows 7への移行を進めようとしている。これらの企業では、スムーズな移行を実施するために、App-VやMED-V、VDIなどクライアントの仮想化製品の導入についても、併せて検討している。

 クライアントを仮想化する意味はここにある。多くのユーザー企業が、複数の拠点に散在する多数のPCにアプリケーションを展開したり、パッチを適用したりするのに、非常に多くの人件費と時間を要しているのではないだろうか。これは、PCを社員に配布する際に、必要なアプリケーションのインストールや構成をすべて行った上で配布しなければならないからだ。つまり、アプリケーションとOSが依存関係にあり、切り離せない状態で管理されているからである。

 クライアントの仮想化のうち、アプリケーションの仮想化を担うApp-Vでは、OSとアプリケーションの依存関係を切り離すことができる。管理者はいつでも必要なタイミングで、全国各地に散在するPCにアプリケーションの提供やバージョンアップを行うことができる。従来のように現地に出向いて作業したり、PCを送ってもらって作業後に送り返したりする必要はなくなるのである。

 クライアントを仮想化するもう一つの効果として、最新OSへの移行促進が挙げられる。OSのバージョンアップは非常に多くの時間とコストを要する。それは、利用しているアプリケーションが最新OSでは動作しないなどの互換性問題による影響が大きい。デスクトップの仮想化を担うMED-Vは、この互換性問題を回避してくれる。ユーザーは互換性のないアプリケーションを最新OS上でそのまま利用できるようになる。

 そのほかにも、クライアントの仮想化がもたらすメリットは多い。経済状況の厳しい昨今において、台数の多いPCを効率的に管理し、移行や管理に必要となるコストを大幅に下げることができるのだ。