文:鵜川 正樹=監査法人ナカチ 公認会計士

 東京都は単式簿記・現金主義の従来の官庁会計のシステムに、複式簿記・発生主義の新規システムを追加することで、公会計改革の基盤を整えた(図1)。

図1●東京都の財務会計システムの構成
図1●東京都の財務会計システムの構成
出典:東京都会計管理局「東京都の新たな公会計制度の経緯と概要」(平成18 年)を基に作成
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飾りものではなく「機能するバランスシート」

 東京都は、1999年度(平成11年度)から、「官庁会計における企業会計的手法に関する研究」として、「機能するバランスシート」という報告書を計5回にわたり発表してきた。

 そこで常に重視してきたのは、“床の間に飾っておくもの” としてではなく、東京都の経営の問題点を客観的な数値によって明らかにし、問題解決の選択肢を提示して、経営を改善していくために具体的に役立つ「機能するバランスシート」を作成していくことだった。

 実際に、多摩ニュータウン事業や都営住宅事業をはじめ、数々の事務事業の見直しや改善に活用され、経営の効率化に貢献している。

 「機能するバランスシート」のコンセプトは、行政経営の「会計責任」を明らかにして、今後の経営改革のツールとして活用することである。そのため作成する財務諸表は、国際公会計基準をベースにした発生主義会計であり、日本の企業会計の実務に基づいている。さらに、自治体に固有の予算制度などを考慮し、実行可能性を高めている。

決算統計の組み替えから複式簿記へ移行

 当初の「機能するバランスシート」は、有形固定資産は財産台帳に基づいていたものの、財務諸表の作成については従来と同じく決算統計(官庁会計)の組み替え方式だった。

 有形固定資産(インフラ資産を除く行政財産および普通財産)は、固定資産台帳を整備することで、実在する固定資産の取得価額を把握して資産に計上した。しかし、道路橋りょう等のインフラ資産は決算統計の積み上げであったため、実在する道路などの価値を必ずしも表していなかった。加えて、道路などの資産の維持管理計画に役立つ情報も提供できないという限界があった。

 また、事業別財務諸表(事業別行政コスト計算書)を作成して、事業の見直しに活用していたが、事業に関係する資産、負債、収益と費用の把握に多くの手作業と時間がかかっていた。このため、各局が主体的に施策の見直しや予算編成への活用に取り組むことには限界があった。

 結局、決算統計の組み替え方式のままでは様々な限界があり、問題の抜本的な解決のためには、日常的な会計処理の段階から、複式簿記・発生主義会計の導入が不可欠なことが明らかになった。

 東京都は、2002年(平成14年)5月の複式簿記導入の決定から2006年(平成18年)4月の財務会計システムの稼働までの間、財務会計システムの再構築、会計基準と実務指針の作成、開始貸借対照表の作成など、導入への準備を進めていった。