ビジネスブレイン太田昭和
会計システム研究所 所長
中澤 進

 2010年5月20日付の日本経済新聞に「新日本監査法人―会計士100人企業に出向、経営現場で3年修業」という記事が掲載された。経理・財務部門に長年かかわりを持つ筆者は、極めて興味深くこの記事を読んだ。概要は以下の通りである。

  • 2012年までに100人程度の公認会計士を企業に出向
  • 対象は5~7年の実務経験がある27~35歳の会計士。出向期間は3年
  • 上場企業の経理や人材開発部門に配属、新日本が出向先と同水準の給与を払う
  • 監査だけでなく企業経営に精通した会計士の育成が狙い
  • 出向期間中は、日本CFO協会主催の研修に参加
  • 出向期間終了後は原則、新日本に戻る。本人が希望すれば企業に残れる

 この件について、関係者と話す機会があった。それによれば、企業側のニーズはやはりIFRS(国際会計基準)への対応にあるようだ。

真の会計専門家が求められる

 IFRSの特徴として、原則主義がよく挙げられる。原則主義の下では、企業側は自社の活動実態に基づいて、主体的に会計基準の細目を決定していかなければならない。従来のように税法に依拠したり、他の企業が採用しているからという理由で決定したりする方法は許されない。IFRSが大枠で定めた基準に基づいて、演繹的に考えていくことが求められる。

 そもそも会計(アカウンティング)の元をたどると、アカウンタビリティ(説明責任)となる。すなわち、会計は投資家を中心とする利害関係者に対する説明責任を果たすための道具であることを意味する。会計の本質は、金という軸で経営実態を正確に把握することにある。

 会計を道具として生かすためには、会計領域全般について体系的な知識を持つ専門家、すなわち会計プロフェッションの存在が欠かせない。さらにIFRSの原則主義に対応するとなると、会計知識だけでなく、企業活動に関する経験を併せ持つ真の会計プロフェッションが求められるようになるといえよう。

会計=説明責任=情報開示=企業活動全般

 こうした企業が求める会計プロフェッション像に最も近いのは、公認会計士であろう。極めて難易度の高い資格であり、会社法や監査、管理会計、財務会計、租税について幅広く体系的な知識が求められる。

 ところが現状では、企業側が会計士に対して抱くイメージは必ずしも良いとはいえない。「企業の実態を理解していない」「プライドが高い」といった印象を与えているケースが少なくないのである。立場上やむを得ないとはいえ、監査法人に属する会計士自身が会計監査に行動の価値観を置きすぎていた点もきらいもあったとみられる。

 日本企業にとって、このような状況は決して好ましいことではない。米国では約40万人が会計士資格を持っていると言われている。実際、企業の経理・財務部門(米国ではCFO組織となる)のスタッフのほとんどが有資格者である。

 これらのスタッフは経営管理論、財務諸表論、監査論の基礎知識を十分に身につけている。結果的に、米国企業の多くは新たな会計基準や内部統制などに自社で対応できる力を有していると見ることができる。

 特に投資家視点を標榜するIFRSでは、「説明責任」という会計の根本を強烈に求めてくる。この領域に携わる関係者は、「会計=簿記=決算=監査」という構図でとらえてはならない。「会計=説明責任=情報開示=企業活動全般」という認識を持つ必要がある。そのためにも会計領域の体系的知識が必須となる。